オレは君を好きになってしまった。だから、無意識のうちに君を殺してしまったのかもしれない。
「ゴメンね」
本当はまだ生きていたかもしれないのに、と、酷く悲しそうに閻魔大王は言った。
赤い瞳が揺れた。彼は昔のように笑って誤魔化そうなんてことはせず、目の前の私の存在に気付かないふりをしているようにも見えた。
天国と地獄の真ん中で働く彼が、私にわざわざ謝りに来る為に天国に来たのかと思うと、嬉しいような、悲しいような、複雑な気分だった。
地面に咲いた白い小さなぺんぺん草が、この時ばかりはひどく鬱陶しい。
俯けば視界いっぱいに、その白い蕾が目に飛び込んでくる。
「根拠は無いんだけどね、きっとオレのせいだから。…君はすぐにでも転生させるよ」
「嫌だよ」
その言葉に驚いたのか、彼は顔をあげ、私を見た。
「そんなの嫌だよ。やっと、やっと会えたのにまたさよならなんて、嫌だよ」
「…え?」
私はどうにもならなくなって、閻魔に駆け寄り抱き着いた。
その瞬間風が吹いて、閻魔の長い黒髪が私の頬をかすめた。
「……名前?」
思い出したかのように、閻魔は私の名前を口に出した。
嗚呼懐かしきかな。
かねてより聞きたかったその言葉を、私の名前を、この人は思い出さないようにしていたんだ。
「…思い出した?そうだよ、名前だよ」
「そ…っか、そういうことか」
納得したのか、していないのか。
悲しいのか、嬉しいのか。
感情に身を任せるがまま、彼は私を抱き締めた。
「私もね、ここに来て思い出したの」
「うん」
「でもあなたは忘れていたから、それならそれでいいかなって思ったの。でも、やっぱり、好きだったの」
「うん」
「もう一緒にいられない?私、転生しなくちゃ駄目?」
「…ゴメン」
抱きしめる腕の力が強くなり、体はまた密着し、閻魔大王は私の肩に額を置いた。
「もう離れたくないから、オレの側に置いといていい?」
「…うん」
「ゴメンね、好きになっちゃって、ゴメンね」
泣いてるの?と訊ねれば、泣いてないよと返ってきた。
そっか、と言えば、今度は私が涙した。
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あくがる