バスケ部の部長は一年生。
でもとても強いし、統率力もある。実力もすごい。

私はマネージャー。
赤司くんは部長。

なんとも不思議な関係で、彼は私に敬意を払っているのかいないのか、私だけに敬語を使う。

まぁ私は二年生だし、選手とは違う立場なので敬語を使うのは当たり前なのだけど。

少し気がかりなのだ。


「名前ちゃん、いつもご苦労様」
「あ、実渕くん」
「玲央でいいのに。一年も一緒に部活やってるんだから」

じゃばじゃばと水道でボトルを洗っていたら、実渕くんがやって来た。
制服姿だったので、掃除が長引いたんだと思う。

体育館には入らず、私のすぐ隣にやって来た。

「えー、そうはいかないよ。どうかしたの?」
「んーん。何もないわ。ただ寂しそうな名前ちゃんの背中があったから、どうしたのかなーって」

実渕くんは優しく笑った。
こういう優しいところは大好きだ。

「何か悩んでる?いじめられたの?」
「ううん。違うの。…まぁすごく下らないことなんだけどね、話してもいいかな?」
「ええ。言って言って」

蛇口を捻り水を止めた。

ポタポタと指の先から雫が垂れた。

「…赤司くんって、実渕くんとか皆には敬語使わないよね?」
「征ちゃん?…そうね、基本使わないわ。それがどうかしたの?」
「私には依然として敬語だから、なんていうの…こう、疎外感があるっていうか、なんか気になったの」
「アラ、愚問よ名前ちゃん」
「え?」

実渕くんはそう言うと、私の頭に手を置いた。

「男だらけの中に女の子一人。男と同じ態度で女の子に接したら失礼でしょ?だから征ちゃんは名前ちゃんに敬語を使ってるのよ」
「……そうなのかな?」
「多分」
「多分!?」
「本人に聞いてみたら?ホラ」

実渕くんが指差した先には、ジャージを着てさっきまで練習していた赤司くんがいた。

「実渕、早く着替えてコートに」
「はーい。征ちゃん、名前ちゃんが話あるって」
「ちょっ、実渕くん!?」

大丈夫よ、とウインクをして実渕くんは赤司くんの元へ走って行ってしまった。

実渕くんが体育館に入るのを確認した赤司くんは、ボールを持ったまま私の方へ歩いてきた。

間近で話すのは初めてだったりする。

「どうかしましたか?」
「え…っと」

何から話していいのかわからないのと、赤司くんの部長たる所以からか、緊張していた。
仮にも一つ下なのに、この雰囲気はなんなのか。

たじろいでいても仕方ないので、私は咳払いをして頭の中で整理する。

「…あの、私にはどうして敬語なの?」
「え?」
「私以外には普通に喋ってるから…ちょっと気になったの。確かに私は学年が一つ上だけど、女だから気を使ってるなら、そんなことしなくていいからね?」

赤司くんは驚いたのか、目を見開き、そして目線を下げた。

「…先輩は唯一の女子マネージャーですから、目を付けられることも多いと思ったんです」
「え?」
「そんな中、一年の僕が先輩を呼び捨てにしたら勘違いする輩も多いと思って、敬語を使ってたんです」
「そう…なんだ」
「あと、先輩は慣れ慣れしい男が嫌いと聞いたんで」
「うん……うん?」
「いい子な後輩を演じてようかな、と思いましてね」
「…!?」

そこまで言うと赤司くんはボールを放し、私の目と鼻の先まで距離を縮めてきた。

「…え?」

ボールが地面に落ちるより先に、赤司くんが視界に入った。

両手首を掴まれたところで、やっと思考が回復した。

「…あ、赤司くん?」
「なぁ、名前」

初めて名前を呼ばれた。

赤司くんは手を放し、今度は私の頬に手を添え、目を細めた。

赤と黄色が、私を捉えた。

「僕のものにならない?」

魅惑的な唇は、確かに私の名前を呼んだのだ。




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