「蘭姉ちゃん、テレビ回していい?」
「え?うんいいよー」
テレビのリモコンを取って、よくわからない音楽番組から、サッカーの生中継に切り替えた。
よかった、まだ大丈夫だ。
と安心して麦茶を一口、と思いコップを手に取ると、階段をかけあがる慌ただしい音が聞こえてきた。
おっちゃんが帰ってきたもんだと思ったが、扉を開けたのは全くの別人だった。
「蘭!どうなった!?」
「あ、名前。どうし…あ、そっか。始まったばっかだよ」
と、俺、じゃなくてテレビを指差した。
「あ、マジ!?」
「ゆっくりしてって。お父さん今日いないから」
誰だこの人。
高校の制服だし、蘭の同級生か?
するとソファーに座ってる俺とバチッと目があった。
「あれ、もしかして君もサッカー好きなの!?」
「えっ、あっ、うん…」
「そーかそーか。実は私の家のテレビ壊れちゃって、蘭に頼んで今日のサッカー中継見せてもらうことになったのっていうことで失礼」
隣にどかどかと座る豪快な名前…さん?
サッカーが好きらしい。
「名前ー、ご飯食べたの?」
「食べたよー。お構い無くー。あ、あとアイスとお菓子買ってきたから食べて食べてー。おじさんに買ったやつだけどいないらしいし、君食べていいよ」
「あ、ありがとう…」
コンビニ袋からアイスを取り出し、俺に渡す。
台所にいる蘭の元へ走り、何やら忙しく話している。
なんだか見たことあるような、ないような。
麦茶を貰った名前さんがまた戻ってくる。
「ごめんね、なるべく静かにするから」
「ううん、大丈夫だよ」
「そか」
名前さんはビリビリとポテチの袋を開けた。
「あの…名前さん?」
「ん、なに?」
「サッカー好きなの?」
「おう、好き好き!サッカー部入ってるし」
「え?そうなの?」
「うん」
俺がサッカー部入ってたとき、女子はマネージャーしかいなかったよな。
新規入部者か?
「将来はサッカー選手と結婚したいしね」
「あ…そうなんだ」
それはサッカーが好きと言えるのか、少し疑問だ。
「いつから?」
「ん?んー…なんかね、すごいかっこいい人見たのよ、サッカーやってる」
「へー…」
「ドリブル滅茶苦茶上手くて、イケメンだったんだよねー。その人を見つけるために部活入ったの」
「その人のポジションは?」
「多分ミッドフィルダー」
「うん…うん?」
ミッドフィルダー。
俺のポジション。
「…まさか、な」
「おー!キックオフ!」
言葉通り、画面ではもう試合が始まっていた。
「あー、そう言えば」
「え?」
名前さんはポテチを食べながら俺を見た。
「なんか君に似てるかも」
「!」
「あ、お菓子食べていいよ」
「あ、ありがとう…」
まさかそれ、俺じゃねぇの?
首を傾げてアイスを食べた。
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