マネージャーは霊感があるらしく、この季節になるとそのスペックは遺憾なく発揮されるという。
だから今俺らがこうやってバスケをしてる間にも、苗字はおかしな何かを見ているのかもしれない。
俺はいつも以上に苗字を気にかけながら、またサポートをしながら部活を円滑に進めていた。
だが事件は起こった。
「日向くん、名前知らない?」
カントクのその一言が無かったらと思うとゾッとする。
なんでも苗字が見当たらないという。
嫌な予感がして俺は練習を中断し、体育館倉庫の扉を開けた。
なんでそこかといわれたらよくわからない。インスピレーションとでもいうのか、何かが閃いたからだ。
苗字、と叫んで扉を開ける。
夏とは思えない冷たい風が流れてきた。でもそれは一瞬で、すぐまた熱風になった。
中に入ると、苗字はマットの上に横たわっていた。
「…!?おい、苗字っ!?」
急いで駆け寄り体を起こす。体は少し冷たくて、もしかして死んだのかもと思ったけど、うっすら目を開けたので安堵した。
すぐさま苗字を抱き抱えそこを出た。
するとガタガタと何かが倒れる音が後ろからした。
振り向いたら、跳び箱が倒れていた。
「…大丈夫か?」
「あー…うん、ちょっと無理…」
体育館の隅で休む苗字が気になって声をかけると、やっぱりだいぶ辛いらしい。
なんであそこにいたのか、苗字もわからないという。
気が付いたらあそこにいて、金縛りにあって、怖くて目を閉じていたという。
「怖いよー、金縛り」
「…そうか」
「なんか、ごめんね。私って、昔から引き寄せやすいらしい体質らしくて」
「…幽霊を?」
「うん。もしかしたら、知らないうちに皆に迷惑かけちゃうかもしれない」
今日みたいに、と苗字は付け足した。
「日向」
「え?」
「助けてくれてありがとう。どっか怪我とかしてない?大丈夫?」
「大丈夫だよ。心配すんな」
「本当に?」
「何だよ、俺に何か憑いてるって言いたいのかよ」
「うん」
「なんっ!?」
「いや冗談。ゴメンゴメン」
「お前っ…!」
殺意がわいたけど、冗談を言う気力があるなら安心だ。
苗字の手に自分の手を重ねた。
「なんかあったら、すぐ言えよ」
「日向、なんか彼氏みたい」
「…別にそんなんじゃねぇし」
「本当に付き合おうか」
「え」
「嘘。冗談」
苗字の横顔を見たら、耳が赤かった。
視線を逸らしたら、苗字の腕が目に入った。
見るとそこには、見慣れない赤い腫れがあった。
まるで何かに掴まれたような。
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