「……また、別れたんだって?」

目の前に立つ澄ました顔したあいつの顔がなんだかムカついて、俺はどうでもいいことを口にした。

名前は気に入らなかったのか、バスケットボールをつきながら気を紛らわしているように見えた。

「今回は何が原因?」
「鬱陶しかったから」
「ハァ!?んな理由でふったっての!?ひっでー」
「束縛とか嫌いなんだよね」

そう言って片手でボールを投げる。
ボールは見事カゴに入る。相変わらずすげー身体能力。
バスケじゃこいつに勝てねーかも。あ、あと頭も。
実際俺より早くにバスケやってたしな。都合のいい言い訳だな、これ。

「毎日のメール、電話。非常に鬱陶しい。お金もかかるし」
「…それだけお前が好きなんじゃん?」
「束縛したいだけでしょ。付き合ったってだけでこれだもん。うざったいっつの」
「可愛げのねー女」

余計なお世話、と名前は転がったボールを歩いて取りに行った。

あーあ、いつの間にか手足もスラーっとなりやがって。そりゃモテるか。
まぁ、俺もモテるけど。

「ねぇ」
「!」

ボールを拾った名前がこっちを見てた。
あ、なんか綺麗。あれか、太陽の光のせいか。

「ちょっと愚痴っていい?」
「ん、ああ。いいけど」
「そ、じゃあ遠慮なく」

と言うと、なんか構えだした。

「…!?ちょ、なになになになに!?何する気!?」
「パスするだけだよ」
「いやパスする構えじゃねぇって!それはドッジボールで敵に当てる時の男子の構えだって!」
「いーから、ちゃんと取って」

ぶぉん、とボールが弧を描くはずもなく、一直線にこっちに向かってきた。

「うぉっ!?」
「…ちっ、受け止められた」
「聞こえたぞオイ!」

そこは普通ナイスキャッチって言うとこだろ!あーそうだった、こいつは昔からこんなだった。

「ったく、荒いなお前」

座った状態のままパスをして、名前がそれをキャッチして、俺はあぐらをかいて、名前が話し出すのを待つ。

名前はボールを脇に抱えた。

「友達にすすめられて、心理テストをやってみた」
「ほー」
「私はどうやら恋愛に向かないタイプらしい」
「ブフッ!……ゴメン、続けて」
「うん。で、私は恋愛に刺激を求めないタイプなんだって」
「あー…」

そんな気がする。小中高と一緒だけど、こいつがバレンタインに野郎にチョコ渡してるなんて見たことも聞いたこともねーし。

「で、そこにはこう書いてあった」
「なに?」
「相手から何かされるのが嫌い、自分から何かするのも嫌い、何もせずにいたい、だって」
「そりゃ恋愛に向かねーわ」
「刺激を求めないから相手が一方的に自分を求める、そして破局、だってさ」
「まんまじゃねーか。お前将来苦労しそうだな」
「刺激のある恋愛より一定の安心な恋愛がいいんだって」

そしてまたボールを構え、投げてきた。
今回は反応するのが遅くなって、投げられたボールが腹に直撃した。
全然安心じゃねぇ。

「つまり、私とあいつはもとから合わなかったんだよ」
「あー…そうっすか。じゃあお前どんな奴と相性いいわけ?」

名前に向かってボールを投げたら、片手でかっこよくキャッチした。

ふいに俺から目を逸らした。多分壁の時計を見てるんだと思う。

「気を使わない楽な奴じゃない?そんな奴、見たことないけど」

じゃあ目の前の俺はどうなるんだよ。アホ。

「もう5時だ」
「あっそ」
「コナン始まるから帰る。和成は?」
「…じゃ、俺も帰る」
「ん。鍵片付けといて」

せっかくの土曜。
2時に終わったはずの部活なのに、なんで5時に帰るんだろ、俺。
名前の自主練終わるの待ってたとか、言い訳になんのかな、コレ。

外は少し曇っていた。




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