毎朝毎朝駅につくと目に入る女の子がいる。

あ、今日も来てら。

それを確認してから、俺の一日が始まると言っても過言ではない程、彼女を見るのが日課になっていた。

制服からして中央。多分同学年じゃないかと思うがよくわからん。
そして毎朝イヤホンを付けながら、熱心に手のひらサイズの単語帳を黙読している。

持っている単語帳は毎日違う。
日本史だったり英語だったり古文だったり数学だったり。今まで見てきた中で言うと特に規則性はなさそうだ。

今日は英語だった。相変わらず熱心だな。

彼女の前を通りそれを横目で確認する。
もちろん彼女は俺のことなんて見ちゃいない。まぁ目があったらあったで、それはそれで気まずいんだが。

だが今日は違った。

「あっ」
「!」

彼女の小さな悲鳴が聞こえ俺は振り返ってしまった。
見ると赤シートが彼女の手から離れ、俺の歩くすぐ後ろに落ちていた。

行き場を失った彼女の手。
そして固まる俺。

まず落ちた赤シートの場所が悪かった何故俺のすぐ後ろに落ちるのか。

彼女は俺を見上げ、初めて目があった。

やめろ、そんな目で俺を見るな。
クソ、毎朝毎朝あなたを見ていたしがない男子高校生にとってあまりに酷すぎやしないか。
できるならもっと違うシチュエーションで、と後悔しても仕方ないので、俺は赤シートを拾った。

「落としましたよ」

赤シートを差し出す。

すると彼女はイヤホンをはずして立ち上がり、俺の方へやって来た。
え、なんでこっち来んの、手伸ばせば届くじゃん。

「すみません、ありがとうございます」

そんな焦りはいざ知らず、彼女は丁寧にこれまた可愛い声で礼を言ってきた。

「いつも熱心に勉強してますよね。今日は英語ですか?」

何を聞いてんだ俺はァアア。
馬鹿野郎、どういたしましてって言えよ!

「はい、毎日何かしら小テストがあるんですよ」
「そうなんですか」

…やばい、会話止まった。

うわ、どうしろってんだよ、女子と話すの慣れてねーんだよこちとら。
彼女は気まずそうに目を逸らした。うわ可愛いなって違うよ、打開策、なんかねーのか。

今日はいい天気ですね、って馬鹿か古すぎだろ。
ああ、何年生ですかくらい聞いてもいいよな、それくらいの社交辞令はセクハラに入らん。
よし、言うぞ。

「「あのっ…え?」」

見事にハモった。
お互い顔が赤くなったのがわかる。

「そ、そっちからどうぞ」
「あ、えーっと…」

ハモったってことは彼女もわざわざ打開策を練ってきたってことになる。
ここはあえて相手に譲り、出方を見よう。

「…毎朝、この時間ですか?電車」
「え、ああ…そうですけど」
「帰りは?」
「日によりけりですけど、だいたい五時半です」
「…」
「…」

やばい、また会話止まった。
俺も彼女も気まずそうに目を逸らした。

すると丁度いい時に電車が来た。
正直まだ話していたかったけどこれはいい誤算だ。

「で、電車、来ちゃいましたね」
「え、ああ、そうですね…。あの、よければ、毎朝話しかけてください」

耳を疑うってこのことじゃないか。
彼女は荷物をまとめ先に電車に乗った。先に乗っていた友人らしき女子高生に挨拶をしている。

話しかけてください、とか。
まだ俺らはお互いの名前も知らないのに、ちょいと強引すぎやしませんかね。勘違いしちゃいますよ俺。

俺も電車に乗り、二人から離れたところに座った。

名前、英語どう?という声が聞こえた。
それに彼女が応える声がして、俺はやっと彼女の名前を知った。

また明日、今度は俺の名前を教えよう。




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -