神様なんていないと思っていたけど、やっぱりいたんだなってあの時は思った。
それが私の最初の神様の認識だったと思う。


「まだ、生きたい?」


あの時の私は、その言葉の心理がわからなかった。
生にすがりついた私を見て、大王様はほくそ笑んだのだろうか。

人類は生きるために生まれ、心の奥では、自分の生にすがっている。死にたいなんて思っても、本当はどこかで同時に、生きたいと願っている。

閻魔大王様はそれを知っている。だからあんな阿呆らしい問いかけをしたのだ。


「あのですね、名前さん」

なんですか、鬼男くん。

「閻魔大王は、神様なんかじゃありませんよ」

知ってますよ。


さっきのやり取りを思い出し、目頭が熱くなって、堪えきれず涙を流した。

自分でも、なんで泣いているのかわからない。わからないけど、すごく悲しい。悲しくて、惨めで、滑稽で、つらい。

立っているのがつらくてその場にうずくまった。
ただ流れるだけの涙。なんでしょう、これは。

「鬼になっても泣くんだね」

感傷にひたっている私の背後に、誰かが近づいてきた。
見なくても声でわかる。

大王様は振り向かない私に呆れたのか、自分もしゃがんで、私の肩を抱き寄せた。


「だーいじょうぶ。今は悲しくても、きっとすぐ忘れる。涙なんか流さなくてもいいくらいに、どうでもよくなるんだ」

どうしてそんなことわかるんですか。

「…そりゃあ、オレもそうだったから。最初は皆戸惑うもんだよ。似てるんだよなぁ、オレと名前ちゃん」

似てないですよ。

「似てるよ。だからきっと大丈夫。オレが今こうやって生きてるんだから。心配いらないよ、泣かないで」


そして大王様は最後に、ごめんね、と付け加えた。
何に対しての謝罪なんだろう。あなたは私に対してたくさんの罪を犯した。

大王様の手に力が込められた。憐れな鬼を見て、笑っているんだろう。

きっと神様はいる。
だから神様、いつか私を救ってください。




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