鬼男くんは無神論者ですか、と隣にいる名前が言った。

そもそも僕は、その「無神論者」の意味がわからない。あやふやな返事をするわけにもいかないので、どこか遠くを見ている名前にそれはなんですかと尋ねた。

「神様を否定する思想を持つ人を、そうよぶんです」

名前はそう答えると、目を細めてまたどこか遠くを見ていた。

「なぜ、僕がそうだと?」
「…なぜでしょう。鬼、だからですかね」
「あなたも鬼じゃないですか」

それもそうですね、と名前は少し微笑んだ。

名前の額から生えている角が視界に映り、やっぱり似合わないなと思った。
ヒトであった時の彼女は、こうなることを予期していたのだろうか。

「…名前さんは無神論者ですか?」
「そーですねぇ…。鬼となった今は神様はいるんだなあと思いますよ。いや、違いますね。ここに来てから神様はいるんだと思うようになったんですね、きっと」

一人納得したように、名前は額から生えた角を触った。
死してなお、彼女は鬼になってまで生きることを決めた。決めたというか、半ば強引に強制的に鬼にさせられたのだ。

神様が本当にいるなら、名前はこんなところにいないだろう。

「あのですね、名前さん」
「なんですか、鬼男くん」
「閻魔大王は、神様なんかじゃありませんよ」
「知ってますよ」

名前はやっと僕を見た。その目はほんのり赤かった。

自分の気紛れでヒト一人に重い鎖を繋がせた神様もどきのあの男が、とても憎い。

神も仏も、あったもんじゃない。




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