「…教科書忘れた」

あーヤバいヤバい。まさか教科書を忘れてしまうなんて。っていうかなんで持ち帰って勉強しようなんて考えたんだろう昨日の自分。結局しなかったのに。

とりあえず借りに行くか。まだホームルーム始まらないし。

教室を出て向かう先は一つ。

「ヘイそこの冴えない眼鏡。英語の教科書貸して」
「…他に言うべきことがあるのでは?」
「ん?ああ、グッモーニング」
「…おはようございます」

渋々といった様子で挨拶した。何が不満なんだ全く。

「とりま英語の教科書貸してくれ。大至急」
「また忘れたんですか?懲りないですね貴方も」

と言ってカバンの中から英語の教科書を出してくれる柳生には好感が持てるよね。流石私の男。

「そんなこと言ってお前も少しは嬉しいんでしょ?」
「他人のものであろうと落書きをするとわかっている人に教科書を貸すのが嬉しいと?」
「愛の形だよ」
「私はそんなもの望んでいません」

頭が固いなぁこいつは。

「ちょっと考えてみなよ。クラスの違う恋人が教科書を忘れたと理由をつけて自分に会いに来るんだよ?可愛いじゃないか」
「私はひどく鬱陶しいと思うのですが」
「おまっ…駄目だわわかってないわ」
「だって貴方の場合ほぼ毎日じゃないですか」
「それだけお前の顔が見たいってことだよ」
「それは光栄です」

と言って私に教科書を差し出した。

「ありがとー」
「おや大変。私とあろうものが歴史の教科書を忘れてしまいました」
「へーそりゃ災難だな。じゃっ、また」
「よろしければ貸してくださいませんか?」
「白々しい奴。いいよ。歴史ね」

柳生はありがとうございます、と言って立ち上がり私と肩を並べて教室を出た。

実はさっきカバンに歴史の教科書あるの見ちゃったんだよね。可愛い奴め。

恋人同士というより、持ちつ持たれつ。私たちはそんな関係なのだ。

「今日、帰りにラーメン食べてこう」
「もう帰りの話ですか」

だからさ、そうでもしないと妙に意識しちゃうんだってば。

「うっせー」

苦し紛れに言った言葉を聞いて、柳生は呆れて笑った。

「照れ隠しですか。可愛いですね」

なんて余裕な目をしながら言った。

だから、うるさいってば。



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