「変態な人と結婚したい」
俺は思わず珈琲を吐いた。そしてごほごほとむせた。
隣にいる名前は悠悠と食事を進める。
「ちょ、なに今の。流石に意味わからん。彼氏がいるのになんでそういうこと言うのお前」
「いやマジで。ガチで。変態はいいよ、うん。束縛されたい」
「いや意味わかんねーよ」
俺の彼女はいわゆるオタクで、その時々に色んなキャラクターに浮気をする女である。
正直、俺もなんでこいつと付き合うまでに至ったのかよくわからん。多分その場のノリか何かだと思う。
「ふーん…で、なんで急にそんなこと考えたんだよ」
ポテトを手に取って、これまでの経緯を聞き出す。
どうせまたアニメの影響だろう。
「ヨシタケも知ってると思うけど、私おっさんが好きなのよ」
「いや初めて聞いたよ」
「でね、私って今高校生でしょ?三十路のおっさんが私と付き合うことになったら、その人は変態でしょ?高校生の私にエロさを求めてるわけでしょ?」
「女子高生がそういうのあまりでかい声で言うなよ」
「つまり、変態は正義よ」
「つまりお前はおかしい。薄々気づいてたけど」
なんだとコラ、と名前は俺の耳を引っ張った。
「いや、いいよ変態は。っていうか私、いっそのことオカマでもいい」
「いやおかしいって。お前今度は何のアニメに影響受けたんだよ」
「ヨシタケもさー、なんかないの?ロリコンとか熟女とか」
「ねーよ!俺は至って健全だよ!」
しいていうならお前しか見えてねーよ。いやまぁ、アイドルとかも可愛いとは思うけど。
っていうかアレだよな。
彼氏彼女の関係なのに、なんでこいつは彼氏の目の前で自分の性癖を語るのかね。
もしやコレは、俗に言う、ツンデレか?
もしや名前は、あからさまな嘘をついてまでして、俺にヤキモチを妬かせようとしているというのか?
「あ、ヤンデレもいい。年下のヤンデレ。凄い申し訳なさそうに束縛してほしい。ぐっへっへっへっへ」
まるで獲物を見つけた山姥のような顔、そして笑い。前言撤回、ガチでこいつはおかしい。
「…なぁ、じゃあさ」
「ん?」
「そこの大通りで露出狂がいたとしたら、お前そいつと結婚できんの?」
俺の問いに名前は目を細め、苦虫を噛み、いや磨り潰したような顔をした。
「…いやそれ…犯罪じゃん」
「お前が変態がいいっつったんじゃねーか!」
「違うよ!ヨシタケは変態を全然わかってない!あのね、周りに迷惑をかける変態は変態じゃないの、犯罪者なんだよ!」
「じゃあお前のいう変態ってなんなんだよ!」
「趣味!個人的な趣味で、例えば家の中で全裸とか、女装したりとかならバッチコイなんだよ!」
「お前もつくづく変態だな!」
「なんで良さがわからないかなぁ…」
わかんねーよ。わかりたくねーよその前に。自分の彼女が変態だなんて。
「…はぁ」
なんで溜め息つくんだよ!つきたいのはこっちだっつの!折角の放課後デートなんだから、もっとこう、恋人らしいことしたかったのに!
俺の悩みなんていざ知らず、名前はハンバーガーをむしゃむしゃと食べる。
「…はぁ」
今度は俺が溜め息をついた。
「後悔してる?」
「え?なにが?」
「私と付き合って」
「え」
言葉につまった。名前はじーっと俺を見ている。
「…いや、まぁ…」
えーっと、なんて言えばいいんだ?下手に嘘ついたら多分傷つけるし、上手いこと言っても同様だ。
まさか名前がこんなことを言うとは思わんかったわ、流石の俺も。
「…まぁ、確かにたまについていけなくなることはあるけど…。お前は十分面白いし、一緒にいて楽しいし、なんやかんやで好きだし、後悔はしてない。マジで」
「へー。そーなんだ、意外。私は結構後悔することあるのに」
「ハァ!?ちょ、待て待て、何処に!?言えよ直すから!」
「うわ本気にしてるし」
「嘘かよ!?」
やっぱり名前ってツンデレじゃね?
俺はもう少しばかり、こいつに振り回されたいと思う。
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