素敵な恋がしたい閻魔大王は口ではそう言ってるけど行動しないが為、そういった所謂、出会いがない。
死者に恋するわけにもいかないけど、あのまま独身を貫いたらどうなるんだろう。面白そう。見てみたい。
なんて言ったら大王は私が買ってきたバニラアイスを食べるのを止め、不貞腐れた顔をして頬杖をついた。
「…じゃあ名前ちゃん、オレと付き合ってよ」
いや、なんでそうなる。アイス溶けますよ。
「…嫌っスよ」
「えーいいじゃーん。バニラアイスあげるから恋人同士になろ?」
「いやそれ私のお金だし…」
「オレ、結構本気だよ?いつ死ぬかわからないし…。早いとこ結婚はしたいと思ってたしね」
「いつ死ぬっていうか…え?大王って死ぬんですか?っていうか死ねるんですか?」
「いやよくわかんないけど…」
どうやら本当にわかんないらしい。スプーンでアイスを一すくいし、口の中に。
なんとなく、私はこの人は死なない気がする。腐っても閻魔大王だし。
その閻魔大王が部下をパシってバニラアイス食べてるなんて誰が想像しただろうか。
バニラアイス美味しそう。私の分も買っておけばよかったな。
空腹を満たすため、お茶をすすった。
「オレ結構キス上手いよ?」
「ブフッ!」
お茶を吹いた。いや、吐いた。
口を塞いでゴホゴホ咳き込むと、大王の大丈夫ー?なんて呑気な声が聞こえてきた。
大丈夫じゃないですよ。
「あ、アンタ、なにを言ってるんですか」
「名前ちゃんもきっと満足すると思うよ」
いつの間にかティッシュを持った大王が隣にいた。
ティッシュを差し出されたので二枚取って口元と手を拭く。
「はっはーん」
「…何ですか」
「動揺しただろ?可愛いなぁ」
睨んでやろうと大王を見ると、当の本人はニヤニヤ笑っていた。
「オレ本当にキス上手いよ」
「知らんですそんなん。ほら、アイス溶けますよ」
「溶けたら二人で新しいの買いにいけばいいよ。ね、それより試してみようか?」
「なにを」
「なにって…わかってるクセにぃ」
気持ち悪く語尾を伸ばした大王はぐい、と私に顔を近づける。
うわ、とびっくりして体が後方にそれた。それを良いことに大王は私の背中に手を添えた。
「一応、君より長く生きてるからね、オレ」
色々経験してるから、と言って片方の手を私の頬に。
「…!?」
「…あ、驚いてる。新鮮だなぁ、こういう反応」
口と口が近づく。
「だ、大王…!?」
「ホレ。目、閉じて」
大王は意味深な笑みを浮かべている。
バニラの匂いが、した。
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