どうおもう様へ提出
珍しいことが起きた。あの聖徳太子さまが正装をしている。今日は雨でも降るのでしょうか。
とかまぁそんな冗談はさておき。
何やら今日は大事な、本当に大事な会談らしく朝から妙にピリピリしている。でもそれは上層部の連中だけで、私ら下っぱはいつものように書物を書いたり読んだり運んだりの日々。
正装した太子さまは本当にあの聖徳太子なのかと疑ってしまうほど、サマになっていた。
いつもああやってしっかりしていれば良いのに。
でも私はいつもみたいにダルダルな太子さまのほうが好きかもしれない。
さっきからバタバタと足音がする。私はそれが気になって仕事に集中できない。
隣で仕事をする妹子さまは淡々と筆を動かしていた。
「…今回はそんなに大事な会談なのですか?」
「ええ、どうやらそのようですね」
筆を動かしながら妹子さまは答えてくれた。
「…そんな大事な会談に妹子さまは行かなくてよろしいのですか?」
「まぁ、僕が行ったところでどうこうできるわけではないですし。それに相手側は太子を指名してきましたから。心配ですけどあんなに着飾ってるんです。変なことはしないでしょう」
と妹子さま。
普段から真面目なこの人は、聖徳太子をよく知っている。
「今日の仕事はこれ書いたら終わりですから。ちゃっちゃとやって帰りましょう」
「わかりました」
よし、やるか。
と筆を持つと、一段と騒がしい足音が聞こえてきた。
何事かと廊下を見ると、正装した太子さまがやって来た。
「妹子!やっと見つけたでおま!」
「…何ですかそんなに慌てて」
妹子さまは立ち上がり太子さまへ近づく。
探したんだぞまったくぅ、とプンプンしてる太子さまは衣装は違えどいつも通りの太子さまだった。
「今日の話し合いの記録係としてお前も同席してもらうことになったから」
「ハァ!?聞いてませんよそんなん!」
「だって今さっき私が決めたんだもーん。なんか急に記録係が必要ってゆーから」
「嫌ですよ僕早く帰りたいし。…あ、じゃあ」
そしと妹子さまは私を見る。
…ん?
「華があったほうがいいでしょう」
「…!?わ、私ですか!?」
「ええ。きっといい勉強になりますよ。行ってきてください。太子の仕事ぶりを見たいと言ってたじゃないですか」
「えっ、なになに、この私の仕事ぶりを見たいなんてもしや君…私のファンだな!?」
うわぁなんか話が勝手に進んでる。
「なら話は早い!私も妹子みたいな芋っ子より可愛い娘っ子のほうがよかったからな!よし行くぞー」
「ちょ、ちょっとちょっとっ」
手を引っ張られ、私は慌てて立ち上がる。
カラカラと筆が落ちる音がした。
「じゃ、妹子あとヨロシクな」
「あんま変なことすんなよオッサン」
「せんわい!どちらかというと私はちゃんと段階を踏んでからだな」
「いいから早よ行けや!」
「ほ、本当に私が行くんですか!?そんな大事な会合に!?」
一人慌てる私に太子さまははははーと笑った。
「心配するな。私がついてる。緊張することはない」
じゃ、行くか、と足を踏み出す。
いってらっしゃいと妹子さまの声がした。
見惚れていた私は、そこでやっと太子さまと手を握っていることに気がついたのだ。
「お前の手、小さいなー」
太子さまは走りながら言う。
そして私はまた、この人に見惚れるのだ。