「苗字は兄弟おらんと?」
千歳くんが言った。
「おー、おらんとよ。一人っ子。なんでわかったん?」
「特技ばい」
「すごい特技やなぁ」
当たったことが嬉しいのか、それとも誉められていい気になったのかわからないけど千歳くんはにこりと笑った。
「やっぱり一人っ子はしっかりした子に育つばい」
「自己チューや言われるけどな」
「苗字はそんなんやったと?」
「世間は一人っ子イコール我が儘や思ってんねん。そんなんごく一部やのに」
「苗字はしっかりした奴ばい。悪い子じゃないから、安心せんね」
ポンポンと頭を叩かれた。
こういった包容力があるところを見ると、千歳くんはお兄ちゃんやなぁ、としみじみ思う。
「なぁ、財前?」
近くにいた財前くんに話かけると、財前くんは急に何や、と言いたげな顔で私らを見た。
「苗字先輩?ああ、ええ一人っ子や思いますよ」
「ほんまにそう思っとんの?財前くん」
「ほんまです」
「財前は兄ちゃんおると?」
「わかってんなら聞かなくてもええでしょ」
あ、兄ちゃんおるんや。ええなぁ、兄弟。
「ええなー。兄ちゃんおるって、羨ましい。千歳くんは妹やっけ?」
「ミユキ」
「そうそう、ミユキちゃん。妹もええなぁ」
「親に作って、って頼んだらどうです」
「今さら無理やて。財前くんクールな顔してサラリとすごいこと言うたな」
あ、いい方法があるばい、と隣の千歳くんが言った。
え、なんやと顔を向けたら肩を組まれた。
「俺と苗字が結婚ばしたら、ミユキは苗字の妹になんね。問題解決たい」
「え、じゃあ私は千歳くんと結婚してさらに妹ができる、と。おお、一石二鳥や」
「そんなん俺やって、苗字先輩が俺と結婚したらウチの兄貴が苗字先輩の兄貴になりますよ」
「あ、せやな」
「あと兄貴結婚しとるから姉貴もおるし。甥もおるで」
「あ、じゃあ苗字が俺と結婚してミユキが財前と結婚ばしたら、財前は俺らの弟になるとね」
「それや、それが一番ええわ」
「俺は嫌や」
「何で。平和やんそれでええやんか」
「じゃ、苗字、結婚しよか」
「え、本気?」
「冗談に決まってるやろ。苗字先輩早よドリンク作ってください。千歳先輩、コート行きますよ」
「財前は妬きもち焼きばい」
「うっさい」
財前くんは千歳くんの手を引いて行ってしまった。千歳くんがヒラヒラ私に手をふった。
とりあえず、今日おとんとおかんに頼んでみることにする。
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