私は嫌われ者の余り者なのです、と口に出したら目の前の妹子さまは目を見開きました。
次の瞬間妹子さまの肩が動いたので、私は殴られると覚悟をしたのですが、妹子さまは私の頬に手をあて、あろうことかそのまま私を抱き締めたのです。
「馬鹿なこと言わないでください」
ですがその言葉だけは怒っているのです。
優しさと怒りを同時にぶつけられた私は何故だか泣きたくなりましたが、私は泣きすぎて涙が枯れてしまったのを思いだし、涙を流せずこの気持ちをどうすればよいのかわかりませんでした。
「あなたは嫌われ者でも余り者でもありません」
そしてまた、力を強めて私を抱き締めました。
「そんな人間なんていません。あなたは誰かに必要とされているんです」
力のこもったその声は何故だか震えているようでした。
「私を必要とする人間なんていません。私は人を不幸にしてしまう。皆、私が嫌いなのです」
負けじと私がそう言い返すと、妹子さまは違います、とはっきりと怒鳴りました。
妹子さまは私を離し目線を合わせると、そんなことないです、とまた小さな声で言いました。
ポチャン、と沼の水が跳ねた音がしました。
そう、私はここに死ににきたのです。
「死ぬなんて許しません。あなたを死なせてたまるか」
「だから!私など必要ないのです!この国で生きる意味など、ないのです!」
もともと何の取り柄もない私は、父上の官位だけで宮殿に上がった身。父上がいなくなった今、私はあんなところにいるべきではないのです。もう嫌なのです。あそこへ戻りたくない。
「だからって死ぬ理由にはならない!生を受けた身であるなら、自分から死ぬなんてことはしてはいけない!」
「だったら…だったら、妹子さまが、今ここで私を殺して下さい!」
ばちん。
私の右頬に痛みが走りました。今度こそ、私は妹子さまに殴られたのです。痛い、痛い。
でもやはり、涙は出てきませんでした。
「あなたは、馬鹿ですか」
妹子さまの声がしました。声は震えています。
「僕だってあそこの人間です。民は守らなければならない。でもその前に僕は男です。好きな人が死ぬのを黙って見届けるほど阿呆じゃないし、好きな人を殺すなんて馬鹿なことするはずも、出来るはずもないでしょう!」
そして、また私を優しく抱き締めたのです。
「あなたがあそこでどんな仕打ちを受けていたのか、僕は知っていました。でも助けなかった。それを今、とても後悔しています」
だから、と言って顔を近づけました。吸い込まれそうな綺麗な瞳を見て、私はまた泣きたくなりました。
「僕はあなたを守ります。僕はあなたが好きです。だから、戻りましょう」
目から何かが流れてきました。
それは温かい涙でした。
「死ぬなんて言わないでください。あなたを必要としてる人間が、目の前にいます。僕に必要とされてください。僕のために生きてくれませんか」
妹子さまが私を優しく抱き締めました。私の涙は止まりません。
嗚呼、妹子さま。苦しいです。やはり苦しいです。
いっそのこと、私はあなたに殺されたいです。
嗚呼、妹子さま。私もあなたが好きです。
まだ生きていたいと、願ってしまった。それはあなたのせいなのです。
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