閻魔と書かれた帽子を被った男の人が生前付き合っていた彼氏に似ていてびっくりしてウワッ、て叫んでしまったところから始まる。
「な、なに?」
あ、でも声が全然違った。彼氏の声はもっと低かった。
「す、すみません、生前付き合ってた彼氏に似ていてびっくりしちゃって」
「あ、そう?オレに似てる人と付き合ってたんだ。えーと、名前は…」
名前です、と言うと男の人はそうそう名前ちゃん!と明るい声で私の名前を呼んだ。やっぱり彼氏の声とは似てなかった。
「君なかなかセンスあるね〜オレみたいな男を彼氏にするなんて」
「は、はぁ…」
満足そうに笑うその人の顔が、やっぱり彼氏に似ていた。少し泣きたくなってきた。
「でも、その彼氏とオレでは決定的に違うものがあるよ」
「え?」
「オレが名前ちゃんの彼氏だったら、絶対死なせやしなかったよ」
なんて言って優しく微笑むものだから、堪えていた涙が溢れてきた。
男の人の隣にいた鬼の角を生やした人が背中をさすってくれて、また涙が溢れてきた。
「ちょっ、鬼男くんなにしてんの!?」
「アンタがだよ!なに女性泣かしてんですか!」
「そういうのはオレの役目だろ!?どいたどいた」
とガタガタと椅子から立ち上がる音がして、彼氏似のその人が私の背中をさすった。
「でも彼氏はいい奴だよ。溺れた君を助けようと真っ先に海に飛び込んだんだから」
死ぬ前の記憶がよみがえった。
海で溺れた私を、名前を叫びながら助けてくれようとした彼氏。カナヅチのくせに何してんだか。
「君の彼氏は生きてる。君が天国で見守ってあげるべきだよ」
「…はい」
「どうしても顔が見たくなったら、偽物で悪いけどここにおいで。オレいつでもいるから」
目をこすり、男の人を見るとまた優しく微笑んだ。
「君は天国ね」
そう言って、閻魔大王は私を送り出してくれた。
私は今度いつ、貴方の顔を見に来るのだろう。
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あくがる