「財前くんて、誰かと付き合ったりせぇへんの?」
思わず耳を疑った。
苗字先輩はベンチに座りながら隣に立っている俺を見上げる。
「…なんですか急に」
「財前くんてイケメンやのに彼女おらんて、小春ちゃんから聞いたから」
「…まぁ、好きな奴以外と付き合うつもりないんで」
と言うと苗字先輩はえっ、と声を上げ立ち上がった。
そして俺の両腕をがしっと掴む。
「!?」
「誰!?誰、教えて!ウチの知ってる子!?」
と興奮気味に目をキラキラさせる。何で女って、女ゆうか苗字先輩って恋バナが好きなんやろか。
「やっぱ男の子やし、そういうのおんねんな〜。誰?誰!?」
いつもはのほほんとしてる先輩なのに、こういった話になると食い付き具合は半端ない。
その割には自分の恋愛には鈍感で、未だにこの人には彼氏がいない。
こんなにアンタを好きな男が目の前にいるっちゅーのに。
「誰!?なぁ誰!?同じクラス?」
「…内緒っスわ」
「大丈夫や、ウチ口は固いで!」
「そーいう問題ちゃうねん。言いたくないんです」
「うーん…知りたいなぁ…。小春ちゃんなら知っとるやろか」
と手を離してユウジ先輩とイチャイチャしてる小春先輩のもとへ向かおうとしている。
「ちょ、待ってください!苗字先輩ストップ!」
「え?なんで?」
今度は俺が先輩の腕を掴んだ。
あの人に教えられてたまるか。
「…じゃあ、先輩の好きな人教えてください。そしたら…まぁ、場合によっては教えます」
「えー…ウチ好きな人とかおらんからなぁ…」
テニス部のマネージャーしてるくせに好きな人おらん、ってすごいな。
こんなに美形揃いなんやから誰か一人くらい好きな人おってもええやろ。
「財前くんはいつからその人が好きなん?」
「…最近好きやと自覚しました」
「じゃあ早よ告白したほうがええで。その女子も嬉しいと思うで」
「…そう思います?」
「うん!」
にっこり笑う先輩。
これはもう言うべきなんじゃないだろうか。
「彼女できたら言うてな!」
じゃ、スコアつけなあかんから、と言って俺の手は宙に。
行ってしまう前に、また腕を掴んだ。
「…あの、先輩っ!」
「へっ?」
「俺が好きなんはっ……」
あんたです、先輩。
それを言ったら、先輩はどうするだろうか。
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