北高と東高の合同文化祭は、私が予想していたより遥かに忙しかった。
裏方である私はのんきに文化祭を楽しむこともできず、あっちにふらふらこっちにふらふら、見回り、喧嘩の仲裁、問題解決に向け身を粉にして働いていた。
文化祭実行委員になんてなるんじゃなかったと、後悔してももう遅い。

時刻はもう午後4時を回っていた。日はもう傾いていて、今日一日の終わりを告げようとしている。

全然楽しめなかったなぁ…演劇部の劇見たかったのに。見回り中に食べたわたあめしか覚えてないや。なんと悲しい文化祭だろうか。

「……はぁ」

窓を開けて空気を吸った。
見慣れない北高の生徒会室が、私たち裏方のたまり場であり休憩室だった。なんともまぁ、こじんまりとした綺麗な部屋だ。所々散らかっているのが気になるが。

そう言えば、我が学校の実行委員会と生徒会は何処へ。
どこかで油でも売ってるのだろうか。

「あ、いた」
「え」

私じゃない声がして、びっくりして後ろを振り向いた。
いたのは、北高の生徒会の人。

「あ…部屋使ってます」
「ああ、いいよ。仕事お疲れ様」

そう言いながら差し出されたのが、缶ジュースだった。受け取ろうか迷っていると、違うのがいいなら買ってくるけど、と言われたので急いで受け取った。
見た目ちょっと怖いのに優しい人だな。そう言えば、北高生徒会って真面目な人多い。

「ありがとう」
「女子にはやっぱりきつかったか、仕事」
「あー…仕事自体はきつくなかったけど、あんまり文化祭楽しめなかったなー、って」
「まぁ今回は初めての合同文化祭だったし、結構大変だったよな」
「ほんと」

そう言って、彼は上着を脱いでシャツの袖をめくった。
ちょっとかっこいいと思ってしまった私は相当疲れてるんだと思う。

「そういや」
「え、なに!?」
「そろそろフォークダンス始まる時間だけど、苗字さん行かないの?」
「あ…そういえば…」

あったっけ、フォークダンス。
なるほど、だから実行委員会、生徒会もろとも所在が不明なのか。

「うーん…疲れたし、私はいいや。あ、私に構わず行っていいよ?」
「や、俺も疲れてるし休憩したくって。ああいう賑やかなの、好きじゃないし」
「あ、そうなんだ」

すると開けた窓から賑やか音楽と老若男女の声がした。フォークダンスが始まったらしい。
楽しそうだなぁと思ったけど、今さらあそこに参加するのは気が引ける。

「踊る?」
「え?」
「あ、いや…なんか躍りたそうだったから」
「そ、そんなに顔に出てたかな」
「俺でよければ、相手になるけど」

と言ってネクタイをほどいた。
少しびっくりして思考が停止したけど、外から流れてくる軽快な音楽に身を任せ、私はモトハルくんに近づいた。うわ、背が高い。

「…ごめん」
「え?」

突然謝られた。びっくりして顔を見上げたら、赤い顔を手で覆っているモトハルくんがいた。

「な、なに?」
「あーいや…。そう言えば、こっち来てくれる口実になるかなぁと…」
「…え、あ、騙した!?」
「…だって苗字さん、せっかく一緒に裏方やってたのに人一倍働いてあんま話せなかったし」

近づけなかったから、と言って私の手を握った。

軽快な音楽が部屋に響いていたけど、私は心臓の音しか聞こえなかった。
目が合うのが怖くて、目の前の無造作に開いたシャツから見える彼の鎖骨を見ていた。

とりあえず、この音楽が終わるまでに次のステップへリードして。



title byあくがる




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