※現代パロ



「もしかしたら私、君のことが好きかもしれない」

独特の喋り方で青いジャージを着た先輩は、やっべ家の鍵かけ忘れたかも、みたいな感じに言ってのけた。誰にって、私に。

また何か変なことを…と先輩の言葉を無視してレポートを書いていられるのは、先輩の言うことなんて大概がでたらめというか、3日立てば言った本人でさえ忘れる内容だからだ。

「おーい無視するなよ名前ー。私の一斉一代の告白だぞー。そうそう聞けんぞー」
「いや、だって先輩この前「あの居酒屋の子好きかも」とか言ってたじゃないですか。結構聞いてますよ、私」
「だってそれはお前に言った告白じゃないだろ?」
「そうかもしれませんけど、「好き」って言葉はわりかし聞きますよ」

先輩はよくひょんなことで相手を好きになり、大して考えもせず口に出す。
まぁズバズバ物事を言うのは良いことなのかもしれないけど、言葉が言葉だからやめたほうがいいんじゃないか、とは前々から思っていた。

「おい名前。好きだ」
「好きでもない相手に好きとか言うのは、やめたほうがいいですよ。その内ぶん殴られますよ。私みたいに寛大な心を持っているからいいものの」
「なんだよ。ガード固いなお前は」

ちぇーなんだよ、私が好きって言ってんだぞとかぶつくさ言う先輩。なんで私が怒られてるんだろう。

先輩は過去に何人、女の人にこうやって「好き」と言い続けてきたのだろうか。
先輩は惚れっぽいから、きっとたくさんの人を好きになったんだろうな。

「そういやお前」
「え?」

ボーッとしていた。いつの間にか先輩は眼鏡を外して私を見ていた。

「最近閻魔と一緒にいるのを見るんだけど、お前ら知り合い?」
「知り合いも何も…この前の合コンで先輩が呼んだんじゃないですか」
「あれ、そうだっけ」
「そうですよ」

相変わらずボケている。

「まぁそれはいいんだよ、原因を作ったのが私だとしても。なに?連絡取って遊んだりしてるのか?」
「流石に遊びはしませんけど…学食で会うくらいですよ」
「ふーん…」
「ああ、でも前本屋で会ってそのままお茶しに行きました」

そしてまたふーん、と言った。
特に何も聞かれなかったのでレポートを書き進めていると前から視線を感じた。
顔をあげると先輩と目があった。

「な、何ですか」
「いやー、本当に私は名前が好きかもしれないと思ってな」
「ハァ?」

我ながらアホな声が出たと思った。
眼鏡をかけ直した先輩は、頬杖をついて私を見た。

「名前以外を好きって言うと何故だか変な気持ちがするんだよ」
「…」
「いろんな子を見てもさ、名前のほうが可愛いとか、名前のほうが優しそうだとか、何故だかお前が出てくるんだよ」

そこまで言って、先輩はため息をついた。

「さっきの閻魔だってそうだ。お前と一緒にいるのを見るとイラつくし。しかもお茶したとか聞いとらんわい。なんだよ私なんか同じマンションに住んでるのに部屋にあげてくれたこともないぞ」
「…それは当たり前だと思います」
「そんなこと言わずに。なぁ、それ終わったら私の家来ないか。サービスするぞーしまくるぞー」
「気持ち悪いのでお断りします」

終わらないレポートをファイルに閉じて、シャーペンを筆箱に入れ帰り支度を始めた。
先輩のせいで集中できなくなってしまったではないか。もういい、続きは家でやろう。

「お先に失礼します」
「あ、ちょっと待ちんしゃい」

立ち上がる私の手を掴み、先輩はいつもみたいに笑った。

「そのレポートが終わったら家に来てくれ。カレー作って待ってるから。言いたいこともあるしな」
「……考えときます」

解放され、私は足早に図書館から出た。
なんで私はこんなにドキドキしてるんだろう。馬鹿らしい。

もしかしたら、いやそんな馬鹿なことあるわけ、無い。




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