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「つまり、パラレルワールドだと」
「まぁそういうことだね」

給水塔のすぐ下の陰になる、絶好のサボリスポットに俺たち二人は腰かけて、全ての事情を話した。

話を終始聞いていた女子、名前は折原心亜さんと言うらしい。うん、聞いたことない。
折原さんは俺の話にツッコミを入れることもなく、ただ面白そうに聞いていた。

話し終わると、 折原さんは案外すんなり話を受け止め、クスクスと笑った。

「パラレルワールドねぇ…。実際そういうのってあるもんなんだね。まさか私がそんな人間に会うなんて思わなかったな」
「…君って案外タフだね。疑ってないの?」
「実際あの放送が聞こえなかった人間もいたし、疑うなら自分の聴覚を疑うよ」
「…そう」
「…で、君はどうしたいの?」
「どうしたいのってそりゃあ…もとの世界に帰りたいよ」
「ふぅん」
「ふぅんて」

折原さんは本当に楽しげだ。

「いいじゃん、誰にも見られずひっそり暮らしていけば。案外いいとこだよ?」
「そしたら俺君としか話せないじゃん」
「もしかしたら君と話せる人間はたくさんいるかもよ」
「この学校では一人だけだったんですが…」
「まぁ、あと何分かしたら戻れるんじゃない?」
「そんなウルトラマンじゃないんだから…。っていうか、君授業は?チャイム鳴ったけど」
「トリップした人間なんてもう見れないかもしれないのに、授業なんて受けてられないよ。…話を戻すけど、この学校には七条楓っていう人間はいないよ」
「…じゃあ多分今頃北海道か東京にいるね」

そう言うとへぇ、と呟いた。

「その二択なんだ?」
「え?ああ、うん。北海道に実家があって…いや、俺の世界にはね。で、兄貴と親父が東京にいるんだ。だからどっちかだと思う」
「へぇ…」
「ちなみに俺の世界の立海には折原心亜はいない…多分。少なくとも3年にはいない」
「じゃあ私は今頃池袋にいるのかな」
「池袋?」
「池袋からここに引っ越してきたんだ」
「へえ…」

また風が吹いた。
折原さんは何が面白いのか、静かに笑った。

「ここで会ったが何かの縁か」
「え?」
「確証も保証もないんだけどさ、可能性が0でも、やってみる?」
「…え、もとの世界に帰れるの?」
「多分ね」
「…」
「どう?」
「…やるよ、うん。長居はしてらんないし」
「…そう。じゃ、ちょっとこっち来て」

折原さんは立ち上がり、柵の近くへとやってきた。

「もしかしたらこれは夢かもしれない、と考えてみない?」
「…夢?」
「うん。君の話じゃ授業中に居眠りしてたんでしょ?もしかしたら夢かもしれない」
「…その可能性はないとは言えないね」
「だから、コレ」
「?」

折原さんが手にしていたのは、メモ帳一枚。
どこから出したんだろう。

「これがもとの世界に戻っても君が持っていたら、君は正真正銘、トリップしたってことになる」
「…はぁ」

メモ帳を受け取り、とりあえずズボンのポケットに入れた。

「本当はもっと話していたかったけど…あいにくこっちも忙しくてさ。授業サボっちゃったし」
「え、ごめん。ごめんで思い出したけど、なんか抱きついたりしてごめん」
「謝るの遅いよ」

またクスリと笑った。
なんかミステリアスだな、この子。
彼女の隣に駆け寄ると、彼女は右手を差し出した。

「楽しかったよ。また会えたら、その時に」
「うん、俺こそ。ありがとう、本当に」

俺も右手を差し出し、握手に応じた。
にっこりと彼女は笑う。

「…それより、これからどうす――」

るの、と言い終わらないうちに

ぐるん、と力が働いて俺の視界から彼女がいなくなった。
は?と思っていると、握手をした彼女の右手はいつのまにか俺の襟首に、そして左手は俺の左腕に。

また力が働いて、俺の上半身は柵に乗っかる形となった。

――はい?

俺の視界から見えるものは、高さ何十メートルも上から見る、地面。

――は?

彼女のほうを向こうとしたけど、それは遅かった。


「バイバイ」


耳もとで彼女の声がした。

すると今度は足を持ち上げられそのまま俺は

屋上から身を投げられた。




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