B
「いやっふー女王様ー、ご飯食っべよー」

速水がレジ袋を持って私の席にやってきた。

「…いい加減、その厨2くさいあだ名やめてくれない?恥ずかしいんだけど」
「まぁまぁ、いいじゃん似合ってるしぃ。お、今日はチョコチップメロンパンですか」

話を聞きゃあしない。
こいつと手を組むのは誤算だったか…?
まぁ、いいや。こいつはこいつで十分利用できるし。
前の机の椅子に座り、私と速水は向かい会う形になった。

「毎度毎度思うんだけど、心亜はそれだけで足りるの?お昼」
「胃が小さいから、これだけで満腹になるんだよ」
「へー、そうなんだ」
「嘘だけどさ」
「嘘かよっ」
「…にしても、君はよくそんなに食べられるね」

速水が持ってきたレジ袋には、ありったけの食材が入っていた。

「身長高いから、その分栄養が必要なのだよ」
「関係ないと思うよ、それ」

むしゃむしゃと、メロンパンの何倍もある量の食べ物を躊躇なく胃に到達させる速水。
こいつすごいな。そしてよく太らないな。

「最近平和だね」
「そうだね」
「なんか愉快犯とか乗り込んでこないかなぁ」
「きたらいいね」

適当に相槌を打って、ペットボトルの紅茶を飲んだ。
いやでも、ほんと最近暇だな。
何か起きないかな。

ピンポンパンポーン…

「!」
「?」

スピーカーから音がした。校内放送だ。
速水も食べる手を止め、クラスも少し静かになった。
関係ないし、と思って私はまた紅茶を飲んだ。
ごくり、と紅茶が喉を通った瞬間


『誰か!この放送!俺の声が聞こえた人がいたら!屋上に来てください!』


男子の声だった。
しかも、だいぶ焦っているようだ。

『えーと、詳しいことはあとでお話しますので!俺の声が聞こえたって人!今聞いてる人!とりあえず屋上に来てください!お願いします!』

お願いしますって、頼んじゃってるよ。
誰だこいつ。
クラスも少しざわついてきた。

『繰り返します!俺の声が聞こえる方!今すぐ屋上に来てください!来てくれたら…あの…渾身の一発芸します!!』

ピンポンパンポーン…

そこで放送は切れた。
…なんだ、あの愉快犯は。

「えー…?何?」
「ほんと、面白い人間がいたもんだね。屋上行ってみる?」
「え?屋上?なんで?」

は?

「…放送聞いてなかったの?」
「聞くも何も…無人だったじゃん。いや、無音?最初と最後のピンポンパンポーンしか聞こえなかったじゃん」
「……は?」

速水はポカンとしたアホ面をしていた。
私はさっきの放送内容を思い出す。

『声が聞こえた人』

…聞こえた人…?
聞こえなかった…つまり速水みたいな人間もいたってことか?

「ちょ、どうしたの」
「ちょっと黙って」

速水を黙らせ、クラスにいる人間の声を聞く。
「なんだアレ、事故った?」「何も聞こえなかったな」「やだなー怖い」
なんて声が聞こえる。
どうやらさっきのざわめきは、何も流れなかったことに対してのざわめきだったらしい。

…オイオイ、まじかよ。
私にだけ聞こえたってのか?

そんなの

「…?え、どこいくの?」
「屋上」
「……?」

行かないわけにはいかないじゃん。



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