気がした


振り返ると跡部くん。うわぁ、びっくりした。おはようございます。

「…そんな大げさに驚くことないだろ」
「え、あ、ごめん!本当にびっくりしちゃって…」

だっていつも気配なく後ろにいるんだもん。びっくりするよ、そりゃあ。

跡部くんはジャージを着ていた。朝練の途中だったらしい。

「朝練…だったの?」
「ああ。忍足と打ち合おうと思ったら、勝手にいなくなってな。探してたんだ」
「忍足くんって放浪癖あるの?」
「ここ最近おかしなことをするようになった」
「ありゃりゃ、それは大変…」
「…本当、迷惑だ」

そう言った跡部くんは、何故だか少し嬉しげだった。見間違えかな…。

「…そういうお前は?」
「あ、私も朝練だよ。顔洗いに来てたの」
「…その様子だと、だいぶ走り込んだみてぇだな」
「最終的に鬼ごっこになってね…。年甲斐にもなくはしゃいでしまった」

首に巻いてた濡れタオルが気持ち悪くて、首からとってぎゅうう、と絞った。
びちゃびちゃと水が落ちた。また水ですすぐ。
その間、跡部くんは私を見ていたのかわからないけど視線は感じた。

「…呼んでこようか?忍足くん」
「!…いや、いい」
「え?でも」
「俺様も行く。直々にあいつらには言ってやらねぇと気がすまねぇ」

あいつら…?夕も含まれてるのかな?まさか本当にあの二人付き合ってるんじゃ…。

…なぜ私には隠すの!?

「…?どうした、瀬川」
「あ…いや、ちょっとね」
「…具合でも悪いのか?」
「いや、大丈夫大丈夫。行こうか跡部くん」
「おい、無理はするな。倒れてからじゃ遅いんだぞ」
「えっ、大丈夫だよ本当に!うん、平気!」

それでも跡部くんは疑ってたけど、大丈夫な旨を伝えると顔をしかめ、本当に無理するなよ、と釘を刺した。
私の体なんかより自分の体を大切に、跡部くん。

「跡部くんにも言えるからね」
「は?」
「倒れてからじゃ遅いってこと。無理はしないでね」
「……大丈夫だ。それより、練習試合はどうなんだ?組めたのか?」
「あ、うん。立海とね、次の日曜が試合だから…その次の日曜にね!すごく楽しみなんだ!」
「…立海?」
「そ。確か男子テニスも強かったよね。女子ソフトも強豪なんだよ」

なんと言っても、塩原さんがいるからね!テニスはよくわかんないけど、ソフトが強いのはもう実証済み。

「…立海か…。なるほど、なかなかいいとこと組めたじゃねぇの。頑張れよ」
「ありがと、頑張るよ。男子テニスも頑張って」
「ああ」

なんだろうね、不思議な感じだ。
あんな遠くにいた存在の跡部くんが、今はもうこんなに近い。こんなに話せる。
たった二日で、だいぶ仲良くなれた気がする。
前はこんな、肩を並べて歩くなんて出来なかったのに。

不思議な感じ。そんな気持ち。