応援した

ご飯を食べ終わって教室の自分の席で空を見てたら、授業が始まる2分くらい前に跡部くんがやってきた。

生徒会長って大変そうだなー。
テニス部の部長もしてて、よく二足のわらじでできるなぁ。
私は面倒くさそうだから部長は夕に譲っちゃったし。サポートしかできないけど。

にしてもお昼を食べた後の授業ほど眠たいものはないよねぇー。

「…眠い……」

自然と口に出ていて、次の瞬間あくびをした。
次の授業が国語って、寝てていいですよって言ってるようなものだぜ。

だがしかし。

ここで寝るわけにはいかない!
なぜなら、跡部くんの隣になってしまったからさ!!

…意味分からない?よし、じゃあ説明しよう。

考えてごらんなさいな。あのイケメン跡部くんの隣になってぐーすか爆睡なんてしたら、跡部くんから変な目で見られること間違いなし!!

「隣の席の女子がよ…」

なんて今日の部活の話題にされること間違いなし!
チキンな私にとって、これ以上ない羞恥行為!!

そんな醜態をさらすくらいなら、真面目(そう)に授業受けてやる。

それに今日は激辛ミントタブレットがあるしね。いやぁ、昨日のうちに買っておいてよかった。

…あ、お昼のこともあるし、跡部くんにもあげますか。

「跡部くん跡部くん」
「あ?」
「ミントの辛いの平気?」
「?ああ…」

空いていた跡部くんの左手首を掴み、手のひらにタブレットを2個出した。

「…?なんだ、これは」
「激辛ミントタブレット〜。頭スッキリするよ!」

笑顔を向ければ、少し不審がっていた跡部くんは、私のあげたタブレットを口に含んだ。

「…辛いな」
「スースーするでしょ」
「女もこういうの食うんだな。てっきりチョコだの飴だの、甘ったるいものしか食わないと思ってたが…」
「そりゃあ女の子は甘いもの好きだからねぇ」
「お前は?」
「え?」

何が?と聞き返す前に跡部くんが口を開いた。

「甘いもの、好きなのか?」
「?うん、結構好きだよ。でもやっぱ、こういうミント系のほうが好き。ミントチョコとか。跡部くんは?」
「特にねぇな。…でも、こういう辛いのだって好きだぜ。…お前からもらったプリン食ったあとだから、すげぇ辛ぇけどな」
「あ、もしかしてプリン嫌いだった?」
「あ?そんなんじゃねぇよただ……」
「?」

言葉を待っていたら、跡部くんがこっちを見た。

え?え?
照れたように笑った気がした。

「…なんでもねぇ」
「?あ、うん…」


な、何?ワタクシ、何か粗相を…?
どうしたのかと思ったけど国語教師の野太い声で授業が始まってしまった。

…なんだったんだろ。




「だーくそっ、跡部の野郎!!」
「何も今日1日ランニングにしなくてもいいだろーがクソクソッ」
「せやかてええ物見れたしええやろ」

時刻は放課後。皆部活に勤しんでいる。

跡部の恋路応援隊はというと昼休みの覗き見の一件で跡部から罰を受けている最中である。つまりランニングの最中。

「いやでも、跡部があんなことするとは…プフッ」
「言うな岳人。思いだすだろ」
「跡部も跡部やけど瀬川さんもやるなぁ。いい人やな」
「跡部あのプリン食べたかな?」
「どうだろうな。案外生徒会室の冷蔵庫にあるかもしんねぇぜ?」
「食べるのが勿体ないーて、跡部のキャラちゃうやんけ」
「俺なら食っちまうけどな」
「え、マジで?俺なら悪いし返す」
「宍戸、それはアカンて。素直にもらっとかな」
「そういうモンか?」
「侑士なら?」
「俺…はせやな。家帰って食うかもしれん。学校はなんか恥ずい」
「うわ、女子かお前」
「好きな子からならしゃあないやん。瀬川さんからもらったら多分跡部に見せびらかすかあげとるやろうけど」
「俺はなつのからなら構わず食べる」
「まぁ、あいつはな」
「何や宍戸もかいな」
「だから仲いいからだっつーの。別に恥ずかしくねぇし」
「小学校の頃からつるんでたし、今さらあいつに恥ずかしいとか思わないよな」
「何や跡部が聞いたら羨ましがりそうやな」

跡部となつのに中学に入ってから出会った忍足は、それ以前に2人がどんな様子だったかは知らない。
でも多分、今と変わらないだろうと思った。

「一回止まんね?疲れた」
「…せやな」

気づいたらテニスコートからだいぶ離れた場所にきていた。

うーん、さて。
どないしよ、と忍足は思うわけだ。

どうしようというのは跡部となつののことであり、どうせなら2人を応援したい。なつのにその気がないのは重々承知しているが。

跡部とは何やかんや付き合いは長いし、仲間だし友人だと思っている忍足。

友だちが困ってるなら助けるのが筋やろ。義理ならあるで。

でもクラスが違うので、ぶっちゃけ2人がどうなっているのか全くわからない。跡部と合うのももっぱら部活、運がよければ昼休み。

…自分から会いにいったらなんかややこしいしな。逆に瀬川さんに気があるとか思われたら敵わん。…帰り道くらい一緒にしたろかな。
あ、駄目や。跡部ベンツや。瀬川さんの性格上、引くか緊張するかのどっちかや。

うわ、ムズい。ごっつムズいでこの試練。

「…お、女子ソフト」
「!」

偶然立ち寄った水道は、グラウンドの近くで女子ソフトの練習風景があった。

「…あ、なつのだ」
「あ、ホンマや」

あーあ、跡部も走っとったらよかったんに。
カキン、といい音が響いた。




「かっとばせー、わ・た・しっ!!」

カキーンといい音がしてボールはサード方向に飛んでいった。

ナイスピッチー、という声援と拍手を受けながら一塁へ走る。
最近バッティングの調子がよくて困る。いや、マジで。もうすごいくらいよく飛ぶんだよ。どうしたもんかねこりゃあ。

「バカなつのー。飛ばしすぎー」
「せっかく1点取れたのにバカとな!?」

親友の声で目が覚める。

「最近調子いいね」
「まぁね」
「…あ、忍足だ」
「え」

夕が水道の方を向いて言った。
確かに、あの長身長髪は忍足くんだ。あ、岳人と亮もいる。

「部活じゃないの?テニス部」
「ランニングじゃない?」
「ふーん……」

確かにどの部活でも持久力は大切だもんね。跡部くん考えてるなぁ。(※違います)

「なに?テニス部気になるの?」
「え?」

夕がにししと怪しげに笑った。テニス部…って、男子テニス?

「コートの方見てたから」
「今日も今日とて、女の子の声援がすごいなぁと」
「加勢したいの?」
「まさか」

私がそう切り捨てると、夕ははぁあとため息をついた。何やねんコイツ。

「喜ぶと思うけどなぁ、跡部」
「そりゃ声援は多いほうが喜ぶでしょ」
「いやそういうんじゃなくってさ」

呆れた声でそう言う夕に、後輩が部長ー、と言いながら近寄ってきた。

「部長呼んできてくれって、忍足さんが」
「!」
「忍足が?」

何かよくわからない、腑に落ちないといった表情を浮かべたが、夕は小走りに忍足くんのもとへ走っていった。

何だろ。

ま、いっか。後で聞こう。
カキン、といい音が鳴ったので、私は反射的に二塁へと走った。