知られた


情報の伝達早すぎじゃね?


購買に向かおうと教室を出たら、色んな学年の女子が跡部くんの隣の席の人あの人よ!なんて非難の目で私を見てる。

怖いよー。助けてよー。
ため息つきながら廊下を歩いていると、見たことある後ろ姿を発見。

「助けてマイエンジェル!!」
「どぅわ!?」

見境なく後ろから抱きついた。

「!?なんだなつのか…。変質者かと思った」
「それが親友に向かっていう言葉ですか」
「親友?だれが?」
「泣くぞ。今私のハートはガラス細工より繊細なんだ」

マイエンジェルこと親友こと相棒こと我が氷帝女子ソフト部の部長、篠田夕。彼女が唯一無二の何でも話せる仲です。

「ああ、席替えだってね。跡部の席だったんでしょ?おめ」
「嫌だよう怖いよう、女子の視線が」
「光栄じゃん。見せつけてやればいいのに」
「死ねと言うのか」
「あんたは自分に自身なさすぎ。外見だって悪くはないんだから、胸はってりゃいいじゃん」
「無理だよ!跡部くん怖い。イケメンすぎて恐れ多い」
「あ、そういえば日曜の試合なんだけど」
「無視!?」

スカートのポケットから一枚の紙を取り出す夕。
あたしはこれほど悩んでいるというのに。親友<部活かよ。

「はいコレ。対戦コード表。一回戦は楽なとこだから、勢いづいて勝ち進むこと」
「…一回戦は楽だね、確かに。地区大会だからシードはなしか」
「うちらは最後の大会だし、頑張って全国行くよ」
「おうよ」

そうだね。この夏で、最後の大会なんだ。今までは関東どまりだったけど…全国行きたいな。

「あ、そういえば」
「え?」
「跡部くんから頑張れって言われた」
「!……まじで?」
「マジマジ!びっくりしたー。まさかあの跡部くんから言われるなんて思わなかった」
「……」

夕はげぇマジかよ、みたいな顔をしながらジュースを飲んだ。マジなんだよ。

「……あの跡部が」
「ねー、びっくり」
「…行動に移したか」
「は?」
「は?」
「え、なに?」
「なにって…。あんた知らないの?」
「?何を?」
「……」

するとまた夕はげぇマジかよみたいな顔をした。
え、何さ。

「……まぁいっか。とにかく席、隣でよかったね」
「え?どこからそんな話に?」
「チャンスよー。彼氏にでもさせちゃいなさいな」
「え?馬鹿何言ってんの。無理無理無理」
「無理ってことは嫌じゃないんでしょ」
「そういう問題じゃなくって…」

だから私、跡部くん苦手なんだってば。こいつはそれを理解してくれていると信じてたけどそうでもないらしい。

「あ、そうだ。今度練習試合申し込もうと思うんだけど」
「えー、どこでもいいよ」
「そ、じゃあ適当に考えとくわ。早く購買行かないと売り切れるよ」
「ああっ!メロンパン!」

そうだ!購買に向かってたんだ!危ない危ない、本来の目的忘れるとこだった!

「じゃあね夕!また部活で」
「はいはーい」

夕と別れて購買に向かう。
後ろで頑張れーなんて声が聞こえたけど、何に頑張るのさ。




「うちのクラスの女子がよ」

うどんをすすりながら、宍戸が唐突に話をしだした。

「跡部に渡しといて、って手紙渡された」
「またかいな」
「今月3回目だぜ」
「跡部のこと好きな女子って自分からガツガツいかないよな」
と言いながら、岳人もうどんをすする。俺だけ蕎麦かいな。今さらやけど。

「っつうか、跡部って女子からモテてるけどあんま噂聞かないよな」
「ああ、確かに」
「好きな奴でも作っといたら、あいつも楽なのによー」
「おるで」
「は?」
「跡部の好きな奴やろ?おるで」

蕎麦を口の中に含んだまま2人を見ると、豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

「……イヤイヤイヤ、あの跡部が好きな奴であって、跡部を好きな奴の話じゃねぇよ?」

蕎麦を飲み込んだ。

「知っとるわ」
「……は!?え、ちょ、侑士!!マジかよ!」
「マジや」
「そんな話聞いたことねぇ!ちょ、誰だよ!!」
「なんや知らんかったんかいな」
「知らねぇよ!教えろよ!」

まさかこんな食いつくとはな。しかも知らんかったとは。
お冷やを飲んでから話をする。

「女子ソフト部」
「…?女子ソフト?」
「せや。個人情報やしこれ以上は教えられん」
「なんだよケチケチすんなよ!」「阿呆、これ以上バレたら跡部の顔もたんやろ。それに広まったら跡部の好きな人にもとばっちりくるし」
「うっ…」
「あ、いい忘れたけどこの事は他言無用やからな。絶対言ったらアカンで」
「おう…」

と話を終わらせた。すまん跡部、堪忍な。

「…あの跡部がねぇ……。しかも女子ソフト部…」

岳人が意外そうに呟いた。まぁ無理はないか。なんたって、あの跡部やし。

「跡部って意外に奥手やねん。多分話した事も数えるほどしかないんちゃうん?」
「ちょ、ウソだろ!?あの跡部が!?あの跡部なら「俺様の彼女になりやがれ」的な事言ってさっさと自分のものにしそうなのに!」
「意外だな…」
「せやな」

なんちゅーか、まぁ、頑張れっちゅーこっちゃな。
お冷やを飲むと、宍戸がそういえば、と口をはさんだ。

「跡部のクラス、席替えしたんだってな。うちのクラスの女子が騒いでたぜ」
「え、何やそれ。聞いてないわ」
「お前のクラス跡部のクラスから遠いもんな」

あー、確かにもう席替えの時期やな。

「で?誰や?1ヶ月あの跡部の隣の席になってもうた可哀想な女子は」
「なつのだってよ。瀬川なつの」
「は!?」

その名前を聞いて、お冷やを持つ手が止まった。2人とも驚いた顔をしていた。

「ちょ、何だよ忍足…急に」
「な、ちょ、待ちぃや。瀬川さんかいな」
「何だよ知ってんのか侑士」
「知ってるも何も…跡部が好きな人って、その瀬川さんや」