氷帝

「七条、前の学校じゃ応援団に入ってたってホンマなん?」
「ああー…。…あれ。俺お前に言ったっけ?」


司の問いかけに、忍足は宍戸から聞いたと答えた。
ラケットでボールつきしながら、忍足は感心したのか意外なのか、少し顔をほころばせ、うわぁ、と口にした。反対に司は顔をしかめた。

ポン、ポン、と一定時間に鳴るテニスボール。忍足はでも、と続ける。


「学ラン似合わなそうやな、その髪じゃ」
「俺が髪染めたのはこっち来てからだっつの。前の学校じゃガッツリ黒髪だったよ」
「嘘やん」
「マジだ」


信じたのか信じてないのか、忍足はボールつきを止めてボールをジャージのポケットへ入れた。
そして顎に右手を添え、ふむ、と考えるように司を見る。


「じゃあなんでテニス部のマネージャーなんてしとんの?応援部入ったらよかったんに」
「応援部に入るつもりはなかった。それに俺応援部じゃなくて応援団だったし」
「なにが違うねん」
「だから…部活じゃなかったんだよ。大会とか近づくと有志で何人かが集まって、壮行会でエール送るだけだから、部活じゃねぇの」
「へぇ」
「それに」
「うん?」
「俺は家庭科部だった」


ブッホォ、と何かを吹き出す音がしたので司が隣を見ると、忍足が腹を抱えて足ががくがく震えるほど笑っていた。

声を抑える笑い方に余計イラつき、咄嗟に足が出た司を誰が咎めようか、いや、咎めまい。



「気がすんだか丸メガネ」
「スマン」

初めてみた忍足の大爆笑を貴重だと思ったがムカつき具合のほうがでかいので腹立たしいことに変わりはない。

司に蹴られた太ももを擦りながら奴は謝ったが、口の端がまだ震えていたので靴の底を見せるとホンマやめて、と引き笑いしながら一歩退いた。


「いや…だって…ある意味お前はホンマ美味しいやっちゃな…ブフッ」
「懲りねぇなテメェはよ」
「家庭科部って、なにしてたん?」
「料理とか裁縫とか。やってることは家庭科の授業の延長だよ」
「へぇ…。ブフッ」
「テメェほんとメガネ割ってやろうか」


いっそう不機嫌になった司を見てヤバイと思った忍足は、笑いを堪えながら話を続けた。


「いやしかし、男だらけで料理したり裁縫してるって想像すると…なぁ?」
「確かにシュールだったな。野郎がエプロンやら割烹着やら着ながらチョコレート湯煎で溶かしてたのは」
「え、なにそれ!?バレンタイン?」
「ああ、顧問に煽られてな…。何が悲しくて野郎共で逆チョコ作んなきゃなんねぇんだ」


チッ、と舌打ちしながら昔を思い出す司。
一方、エプロンをつけながらチョコレートを溶かす司を想像した忍足はまた吹き出した。

司から顔を逸らし、蟻の行列を見ながら笑いを堪え、忍足はまた聞いてみた。


「だ、誰に渡したん…?」
「弟」
「あ、そうなん。…いや、実は男子校聞いてたからそういう…男子にあげたんかと思ってたわ」


忍足の言葉に司は身震いした。
しかし忍足はそれに気づかず、蟻の行列から視線を戻した。


「っていうか、男子校ってどうなん?女子と話すん?やっぱ男ばっかやと変な奴もおるんちゃう?」
「あ…ああ。勉強してないのに頭いい奴とかな」
「いや、そういうんやのうて、ホラ、アレやアレ。ホ――」
「いたよ」
「え?」


忍足の言葉を最後まで聞かないまま、司はピシャリと言い放った。

忍足は固まり、司は疲れたように口だけ笑い、時間が止まったように思えた。


「…いたよ、男が好きな奴。先輩に」
「……うん?でも、え?男子校やろ」
「世の中にはいろんな人間がいんだよ。…テメェは知らないだろ、男の先輩4人に囲まれて可愛くラッピングされたチョコレート渡された奴の気持ちなんかな…」
「………」


挙げ句告白付きだぞ、と司は続けた。

忍足は何秒かフリーズした後、冗談やめろや、と笑って返したが、やはりというか予想通りというか、司はハッと鼻で笑った。しかしその目は少し濁っていた。


「…笑えよ」
「…いや笑えんて!」


忍足は真顔でツッコミをした。



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