氷帝

放課後、テニスコート外にて。

鳳と司と樺地の長身三人(右から185、176、190)が、跡部と日吉の試合をフェンス越しに観戦、応援していた。

もちろん司は日吉を応援している。

「勝者は日吉!敗者は跡部!イェー」

と、真顔で応援する司はどこから見てもヤジを飛ばす不良であった。だが心優しい男子テニス部マネージャーであることを忘れてはならない。

慕い続けている跡部をけなされている樺地の心境を察することなく、司は日吉を応援している。

「そういやあさ」
「え?」
「お前ら『氷帝コール』とか言って氷帝持ち上げて相手校馬鹿にするような応援してるけど、あれいいのか?」
「あ、勝つのは氷帝、負けるの…ってやつですか?え、駄目ですかね?」
「駄目ですかねってお前…」

司の疑問に鳳はきょとんと首を傾げ、司は呆れ顔になる。

「俺んとこの中学じゃ、下手に相手校を馬鹿にしたっけ先生から怒られてたぞ。いいのか?スポーツマンシップ的に」
「え、でも俺たち今までずっとこれでしたし。怒られたことなかったですよ、負けないから。そんなこと今まで考えたことなかったです」
「今サラッと嫌味言ったな。新しい応援歌でも作るか、暇だし」

と、二人の試合に興味をなくした司と、それにのってしまった鳳の作曲活動が始まった。
真面目に観戦しているのは樺地だけである。

「どんなのにすっか…。童謡とかから作ればいっか。アルプスいちまんじゃくとか」
「あ、よくやりました、アルプスいちまんじゃく。今思えば、せっせっせーのよいよいよい、ってなんなんですかね?」
「タイミングあわせじゃねーの?…あ、そういやアルプスいちまんじゃくって三番まであるんだよな」
「え、そうなんですか?」

鳳が驚きの声をあげた。
司はえ、知らねぇの?とこちらも驚きの声をあげた。

「北海道だけか?」
「どんなのですか?」
「ん」
「え?」

司がいきなり両手の平をつき出した。鳳は戸惑ったが、話の流れから理解したのか、両手の平をつき出す。

口頭だけで始まるためのお決まりのセリフを言い、タイミングをあわせる。

「おーはなばたけでひるねをしーたらちょうちょがとんできてキスをする、ヘイ、らーんららんらんらんらんらんらん、らーんららんらんらんらんら、らーんららんらんらんらんらんらん、らんらんらんらんらー」

次三番と司が素早く呟いた。

「おーばけやしきでひるねをしーたら、火の玉とんできーて火傷する、ヘイ、あーっちちのあちちのあーっちちのあちち、あーっちちのあちちのあちちのち、終わり!」

じゃーん、と効果音が聞こえてきても可笑しくはない終わりかたである。

「…わー…。俺初めて聞きました!でもなんか、全然アルプス関係ないんですね!」
「だな。全国共通だと思ってたのに、案外知らないもんだな。樺地は知ってたか?」
「ウス」
「え、知ってたんだ。知らないの俺だけかな?」
「気にすんな鳳。跡部はきっとアルプスは知っててもこのアルプスいちまんじゃくという庶民の娯楽は知らねーはずだ」

と、こうしているうちに跡部が3セット先取した。

が、司と鳳がそれについて気にかけているわけではない。

司はどんなんだっけなぁ、と呟いた。なにがですか、と鳳が尋ねると、前の中学の応援歌、と返された。
アルプスいちまんじゃくで作るのは難しいと考えたのか、司は早くも妥協しはじめた。

「…必勝ー必勝ー、ひょおーてーいー、粘れー勝利を掴むーんーだー」
「あ、なんか聞いたことあるメロディーです」
「RUNNERだ。あー懐かしー。歌ってたっけなぁ、応援してたわ」
「…七条先輩、運動部だったんですか?」
「……」

三人しかいないこの空間で、小さな間が空いた。
パコン、とテニスボールの音がして、司が違う、と口を開く。

「弟の卓球の応援するのに覚えただけだ」
「……」
「…んなしんみりすんなよ。死んでねぇし。ピンピンしてるよ」
「えっ、あっ、そうですよね!」

司から顔を逸らし、気まずいという感情を遠ざける為、鳳はRUNNERの替え歌応援歌を歌って気を紛らわした。




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