氷帝

「傘の色って、その人の性格表してるように見えん?」

忍足が言った。
午後から降りだした雨は、まだ降り続いている。
ちょうど暇だったので、適当に返事をした。

「例えば?」
「岳人は赤やったやん?せやから、明るいとか」
「あー」
「女子はピンクが多いって勝手に思っとったけど、なんやカラフルやなぁ」

ザーザーと降る雨の中、傘をさした人間はいなかった。

「…そうみたいだな。…まぁとりあえず、傘持ってない俺達には無縁の話じゃねぇのか?」
「…ホンマ早よやまんかなぁ…」

忍足とかれこれ15分、雨が止むのを待っている。
というより、雨はよりいっそう激しさを増している。



「なんでお前傘持ってねーんだよ!」

イライラして忍足に肩パンした。

「だって朝晴れとったし、俺天気予報見とらんし!」
「折り畳みとか持ってねーのかよ!」
「こないだ女子に貸したっきり返ってけえへんねん…」
「余計なことしやがって」

舌打ちをすると、隣で忍足はこれで4本目やアカン、オカンに怒られるとかブツブツ独り言を言っていた。

「馬鹿だろお前」
「いや、だって見栄張りたいやん。俺めっちゃ器でかいねんで、みたいな」
「そういう奴に限って社会に出てから損ばっかしてんだよ。好きでもねー女に傘とか貸すなよ」
「それより自分こそ傘持ってへんの?」
「女子に貸してから返ってきてない」
「お前よう人のこと言えたな」

忍足が歯を食い縛った気がしたけど無視しておいた。

「貸したっつーか、勝手に借りられたんだよ」
「誰に?」
「女子テニスの部長。名前なんだっけ」
「神木?」
「ああそう。神木に盗まれた」

ザーザーという雨の音がしばらく聞こえていた。数秒後して忍足が口を開いた。

「…それって折り畳みの?」
「ああ」
「…黒くて白の文字でローマ字が書いてあるやつ?」
「ああ。なんでお前知ってんの?」
「その傘6000円で神木が売っとったで」

雨の音が、また激しくなった。

「………あのくそ女ァアア!!!なんだそりゃあ!!」
「落札されとったいうほうがええんかな…」
「ふざけんな許せん!8割は俺のモンだ!」
「そこかいな」


5分後


「…やまへんな」
「…もう濡れて帰ろうぜ」
「風邪引くのが嫌やゆうて待とうゆーたん自分やろ」

立ってるのが疲れたからその場にしゃがんだ。

「お前姉貴いるんだろ?迎え来て乗せてけよ」
「あー…姉ちゃん暇かな?ちょお待って、電話してみる」
「ん」
「…あ、もしもし姉ちゃん?あ、俺やけど…今暇?傘持ってへんから迎え来てほしいねん…あ、そっか、せやったな。じゃあ…ん」

忍足が電話を切った。

「なんだって?」
「うちの姉ちゃん車の免許持ってへんかった」
「馬鹿かてめぇは!!!」
「痛いっ!殴らなくてもええやん!」
「殴りたくもならぁボケ!」
「あ、そういや七条弟おるんやろ!?傘持ってきてもらおうや」
「来れるわけねぇだろ!馬鹿かお前!」
「なんでそんな怒ってんねん!?」
「あーもういいよ!走って帰るぞ!」
「…?なにやってんだ、お前ら」

跡部が玄関から出てきた。

「ああ跡部いいところに!ちょ、車乗せて!それか傘貸して!」
「はぁ…?」
「げっ、てめぇなんでいるんだよ。そんなとこにいるなら晴れるように生け贄に捧げさせろよ」
「池にぶち落とすぞテメェ」
「七条、跡部の機嫌を損ねたらアカン!!」
「湿気でさらに髪が外にはねてるな」
「テメェこそ眼鏡についた雨拭けよ。あ、泣いてるのか?可哀想に」
「ちょおちょおちょおちょお、喧嘩せんといて!」




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