氷帝

「死ね」
「お前が死ね」
「お前のほうが死ね」
「お前のほうがもっと死ね」
「死にさらせ」
「お前がな」

ビリビリバチバチ。そんな効果音が聞こえてきそうだ。マネージャーと部長が火花を散らしている。
七条先輩がマネージャーになった初日から、この2人は仲が悪かった。だから、これはもう日常茶飯事。
なので俺も安心してスルーできるわけだ。
あ、初めまして。鳳長太郎です。尊敬する人は宍戸さんです。

「泣きボクロが調子乗ってんじゃねぇぞ」
「あぁん?目付き悪男に言われたかねぇよ」

そんな2人を見つめる樺地は一向に止めに入らない。樺地曰く、あんなに楽しそうに口喧嘩する跡部さんは見たことないという。
俺はそうは見えないけどね。
七条先輩と言い争う跡部さんはめちゃくちゃ不愉快そうな顔をしている。キングとまで言われてるあの人にとって、自分に刃向かう人ほど嫌いな人間はいないのだろう。
そんな跡部さんにあんな表情させる七条先輩は、ある意味すごい人なんだと思う。

でもそれを言ったら、跡部さんだって相当すごい。

なぜそんな事が言えるかというと、今日の喧嘩が原因だからだ。

「洗濯物の半径5メートル以内に近づくなっつったよな?」
「近づいてねぇ。たまたまその近くにいた鳳にボールを投げて渡そうとしたら偶然ボールがポールにあたって洗濯物が落ちただけだ」

もちろん嘘である。偶然じゃない。確実にポールに当てにきていた。しかもラケットで。

目の前に広がる惨事(干してた洗濯物が地面に落ちてまた汚くなった)に綺麗好きで生真面目な七条先輩は怒りを隠せない。
っていうか跡部さん、ちゃっかり俺のせいにしてるよね。もう嫌だこんな部長。
そんな俺の思いも虚しく、2人はにらみ合いを続けている。

「っへぇえ〜?鳳にボールを渡そうと?もうちょいマシな嘘付けよ跡部くんよォ。逆に本当だとしてもセンスないなお前」
「アァン?」
「部長が聞いて呆れるぜ。ノーコン野郎が」
「違ぇな。俺様は確実にポールに当てにいった。逆にセンスもコントロールもある」
「ああそうかなるほどな。結局てめぇの故意じゃねぇかァアア!!!!」

七条先輩が叫び終わる前に、我がテニス部部長は逆方向に走り出していた。
逃げるが勝ちとはいうが、あの人にプライドはないのだろうか。

「待てクソガキ!!!!」

この人にもだ。大の中学生、仮にも俺より1コ上の男子2人が全力疾走。見ているこっちが恥ずかしい。

「……仲がいいんだか、悪いんだか」
「……ウス」

七条先輩の怒鳴り声と、跡部さんの高笑いをBGMにしながら、俺と樺地は汚れた洗濯物を拾いあった。

っていうか、何であの2人はあんなに仲が悪いんだろう。


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