氷帝

昔からよくモテた。そのせいで嫌な思いもした。
というか俺の場合、嫌なことしかない。


幼稚園の時。
バレンタインで、クラスで一番多くチョコレートを貰った。まだガキだったし調子乗ってた時期だったので、それを結構自慢した。

するとクラス一の粗暴者Aが、Aが好きだった女子Hが俺にチョコレートをあげたことが気にくわなかったらしく、俺をトイレに呼び出しHから貰ったチョコレートを渡せと言ってきた。
なに言ってんだと思ったが、Aは聞かず、なんかもうジャイアンみたいなやつで、俺のいうことが聞けねぇのかと胸ぐらを掴まれ、渋々そのチョコレートをやった。

事は収まったかに見えたが、事件は起きた。
Hが俺(だけ)にあげたチョコレートをAが食べているのを目撃し、Aにどういうことだと問い詰めれば「司がいらないからやるって言ったから貰った」とでっち上げ、Hが号泣し、大騒動になった。
意味がわからない俺は泣きながら先生に理由を説明したがAも負けじと反論し、楓と俺の友達が応戦してくれたおかげで誤解はとけた。それから幼稚園では、バレンタインにチョコレートの持ち込みが禁止になった。
後日、Aと両親がうちに謝りにきたが、その出来事は俺に深い傷を刻んだ。Hは今もAを許していないらしい。


小1の時。
2年生の女子、Eに並々ならぬ好意を寄せられ、俺は若干女性恐怖症になった。
朝いつも家の前にいて俺を待つ。怖くて時間をずらしても、次の日はずらした時間通りに家の前にいる。先生に相談したが、本人は「面倒をみてるんです」の一点張り。
休み時間ごとに俺を見に来る。
恐怖でしかなかった。

ある日俺はわざと、ドッジボールでEの顔面を狙った。
見事命中し、俺は少し喜んだ。

Eは大泣きし、俺共々保健室に連行された。
これでこりたのか、そいつは次の日の朝、現れなかった。

楓たちとルンルン気分で学校に行くと、昨日のことで話があると、2年の女子数人に呼び出された。
呼び出された先には、Eもいた。
それからは罵詈雑言の嵐である。

「調子のってんじゃないの?ほらみて!Eちゃん唇切ったんだよ!?」
「可愛がってあげてたのに何様!?」

意味がわからなくて泣き出すと、なに泣いてんのばかじゃないのと怒鳴られる。
不安になった楓と友達が助けにこなかったら、俺はどうなっていただろうか。
その後担任の先生と2年の先生に事情を説明し、親を交えて話し合い。今までの事から俺に否がないということで、後日俺を連行した2年の女子数人(勿論Eもいた)とその両親が謝りに来た。しかし何千円もした菓子でも、俺の心は癒されない。
あの日から俺は年上の女が苦手になった。


小5のとき。
楓の通ってた空手道場にKという他校の女子がいた。初めに言っておくが、この場合俺に否があったと思う。

深い意味があったわけじゃないが、俺がついつい「可愛い」と口走ったのを本人が聞いていたらしく、奴は空手道場を辞め、俺が通っていたスイミングスクールにやってきた。
覚えてる?と声をかけられ、ああ空手の、と、そこから交流が始まった。

いろいろ省くが、少しの間付き合った。付き合わない?と聞かれ、ノリでいいよ、と返事をして、形だけだが交際というものをした(ちなみにこの間約2ヶ月で、楓とはすこし気まずくなった)。

しかしまた事件が起きる。

〇〇小のKと付き合っていると学校で噂が広がり、それまで俺と両思い(なおかつ本人は付き合っていた)だと勘違いしていた女Yが、俺を「浮気者!」と罵り学校で大泣きする事例が発生。
勿論俺はYが好きではないし、告白してないしされてもいないし、彼女だと思ったこともないので意味がわからなかった。
幸いYという女は典型的な自己中で横暴。女子が嫌いそうな女子ナンバーワンだったので、男子も女子も、あいつの妄想で自作自演だろ、と俺を支持してくれる奴のほうが多かった。

しかしYはめげなかった。

Kの家の電話番号を突き止め、私は司の彼女だし、早く別れろブス、などのイタ電をしまくったらしい。Kと俺の共通の友達のNから聞いた話なので、真偽は定かではないが明らかに真実だと思う。
その後、Kから別れを切り出され破局。俺がYに対してガツンと言っていればよかったのだ。これは多分俺が悪い。

しかしKが好きだったかと聞かれたら、微妙なのだ。これから好きになろうとしたし、好きになりかけていたが、Yがいなくてもすぐ別れた気がする。

その後Kはスイミングスクールを辞めた。
Yはその後俺に初めて告白してきた。速攻でフッた。


以上のことから、俺は女子に対して嫌な思い出しかない。女子には恵まれなかったが、友達には恵まれたと思う。実際、楓やあいつらがいなかったらやばい場面は幾度とあった。

そんなこんなで中学は男子中を選んだ。おつむの足りないAも、ヒステリックなYも、元カノKとも会うことはないだろう。


と思っていた矢先に先輩からバレンタインにチョコレートを貰った時、また別の恐怖に襲われ、小2以来、友達と楓の前で久しぶりに泣いた。
奴らは俺が泣きながら話をしているのに、可愛くラッピングされたチョコレートを見て笑っていた。



その日から俺はあいつらに対して、ちょっと冷たくなった。


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