立海

「えっ、七条先輩って卓球部だったんすか!?」


赤也が驚きの声をあげると、ブン太が楓の肩に肘を置き、そうだぜぃ、とニヤッと笑った。

なんでお前が言うの、と楓はスコアボードに何かをメモしながら言った。


「うーん…。ぽいような、ぽくないような…」
「なんだぁ?信用ならないのかよぃ。だったら一回こいつと卓球してみ?手加減しねーから。こえーぞこいつのスマッシュ。顔面狙うからこいつ」
「こわっ!」
「赤也に言われたくないなぁ」


楓は満更ではないように笑い、赤也は悶悶としていた。
七条先輩、卓球…。どうも似合わない。


「じゃあこっちでも卓球部入ればよかったじゃないスか」
「いや最初は入ろうとしてさー。部活見学にも行ったんだよ」
「あ、そうなん?」
「でも…。なんかすごく申し訳なくなってやめた。卓球部なんてどこもふざけてると思ってた俺の考えが悪かった」
「ああ…。あそこ顧問すげー厳しいからな…」
「……」


確かに今こんな状態の先輩が行っても部活どころじゃねぇだろうな…と赤也は思った。

卓球部はよくダサい部活の代名詞と呼ばれるがここ立海ではそんなことはない。
どちらかというと真面目で厳しい部活として通っている。どうやら七条先輩の学校ではその真逆でおちゃらけた雰囲気だったんだろうな、と赤也は悟った。


「みんな真面目すぎるよ。そんな勝ちたいの?」
「そりゃ結果だしたいだろぃ」
「俺は結果より面白さを重視する男だ」
「アーソウデスカ」
「楽しかったなぁ…」


書く手を止め、楓はふぅ、と息を吐いた。
そうだよな、この人三年だし、一緒に練習した奴らと大会とか出たかっただろうな。懐かしむ気持ちがわかる赤也は、少し胸を痛めた。
ブン太もそうだよな、と先程とは打ってかわって、穏やかな声を出した。

楓は目をつむり、少し微笑んだ。


「ミジンコの真似したり、ムーンウォークの練習したり…あまりにも練習しなくて顧問が泣き出したのはいい思い出だよ」
「待て待て待て待て待て、ちょっと待って!」


食いつかんばかりにブン太のツッコミが炸裂した。
あまりの大声に、回りにいた部員たちの肩がビクッと跳ねた。


「おかしい!全体的におかしい!」
「はい?」
「だってソレッ…!卓球部全っ然関係ないじゃないスか!!ミジンコ!?」
「あっそうそう!ちょっと聞いてよ。部長がこれまた面白い奴でねぇ、青柳って言うんだけど、そいつがさぁ」
「聞いてねぇよ!いや気になるけど!お前部活ナメすぎだろぃ!そんなことしてたのか!?」
「え?普通っしょ?卓球部だよ?」
「全世界の卓球部に謝れよぃ…」


しれっとした返事にブン太はあっけらかんとした。
うちの卓球部が厳しすぎんのか?いやそんなわけない。あっちがおかしいんだ、と葛藤した。

赤也も摩訶不思議なものを見ているような顔で楓を見ていた。簡単に言えば引いていた。


「顧問が泣くって…一大事だろぃ」
「大げさだよねぇ。休憩がてらソーラン節踊ってたら顔真っ赤にして泣きだすんだもん。なにが悪いんだか」
「その神経だよぃ。部活なのにソーラン節踊る、お前のその神経だろぃ…」


赤也とブン太が会ったことのない人間に同情したのは、これが初めてだった。



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