立海

放課後、テニス部部室にて。

部長と副部長である幸村(個人面談)と真田(風紀委員会)がいないことをいいことに、その二人と柳(生徒会)と柳生(風紀委員会)を除いたレギュラーと、マネージャーである楓が床に胡座をかいて駄弁っていた。

そんな中、ブン太がなぁなぁと話を切り出した。

「昨日帰る途中、近所の公園に弟たち呼びに行ったんだけどさ」
「お、なんですか急に」
「なんか学校で流行ってる替え歌?みたいなのを歌っててよ。で、聞きてぇんだけど、森のくまさんの替え歌ってあるじゃん?」

一同、一瞬なんだっけと頭をひねるも、ブン太が出だしの「あるぅ貧血、森のなかんちょう…」と歌いだすと、ジャッカル以外全員「ああ、あれね!」と笑いだした。

「あったあった。今はあんま歌いたくないけど」
「あれどうやって流行ったんスかね。七条先輩も知ってるってことは北海道にも広まってたんスね」
「ちょうど小学生の時か…。懐かしいのぅ」
「さっぱりわからん」

最後のはジャッカルである。まぁ仕方ないだろう。ブラジルにいたのだから。

「そっか、ジャッカル知らねぇのか」
「ああ。まぁいいよ。構わず続けてくれ」
「わかった。…んでさ、俺がガキのころは、『であった』の部分が『であったんそく』だったのに、弟の歌では『であったんこぶ』になってたんだよなぁ。お前らこれについてどう思う?」
「え、俺は『であったんこぶ』でしたよ」
「は?」
「え?」

たった今、ブン太と赤也のあいだに亀裂が生じた。

静まり返った空間。先に静寂を破ったのはブン太である。短足だろぃ、と一言。

「え、たんこぶじゃないんすか!?」
「短足だって!仁王んとこは?」
「短足。楓は?」
「あー…俺んとこは短足だったなぁ」
「ホラ見ろぃ」
「えー絶対たんこぶっすよ」
「アレじゃない?赤也耳悪いから、短足とたんこぶ聞き間違いたんじゃない?」
「ああ、赤也ならありえる」
「ピヨ」
「んな馬鹿じゃねぇっすよ!」

ガハハハハ、と笑いが起こる。どうやら笑うところだったらしい、とジャッカルは四人から少し離れた位置で観察していた。

「あるぅひんけつ、ハイ」

と、楓が手拍子しながら歌いだし、隣にいる仁王に手をかざす。
仁王は俺か、と苦笑いしながら呟き、パンパンと二回手拍子した後「森のなかんちょう、ハイ」と歌い、隣にいる赤也にバトンタッチする。

赤也はテニスラケットを脇にはさみ、二人と同じよう二回手拍子した。

「熊さんにんにく、ハイ」
「「は?」」
「…え?」

怪訝そうな顔をし、赤也の歌に対しての不満の第一声が見事にハモったのは、楓と仁王だった。

今回ブン太は赤也と一緒に、疑問詞を発した楓と仁王を見ていた。

危険ではないがそれに近い何かを感じたジャッカルが恐る恐る聞いてみた。

「…なんだ?違うのか?」
「俺んとこは『にんじん』じゃった。熊さんにんじん」
「え、俺は『にんげん』だった。熊さんにんげん」

プッ、と吹き出したのはブン太だった。

「いやいやいや、熊さんにんげんだったら怖ぇだろうが!なんだよそれ!?超ウケるんだけど!」

と笑いながら楓につっこむが、当の楓はいやいやいや、と真顔で、しかし笑いながら反論する。

「いやマジだって!熊さんにんげんだったよ俺んとこ!」
「なんだよそれ!北海道すげぇ!」
「まぁ、北海道って他県より熊出没数多いらしいし」
「いや仁王先輩それどんな考察っスか!」

だからってくまさんにんげんにはならないから!と、楓も爆笑しながらつっこみ、四人の高らかな笑い声を一人むなしく聞いているジャッカルであった。



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