氷帝テストが返ってきた。
テストを受けた時点で、司は半ば諦めていたので喜びも悲しみもしなかった。
そんな中、向日からテスト用紙を持って集まれと緊急召集がかかった。
何事かと思って指定された場所に行くと、いつものメンバーが真剣な顔をして座っていた。
唯一忍足だけ、嫌そうに頬杖をついていた。
「…何事だ」
「おせーぞ七条。罰として全員分の飲み物買ってこい」
「あァ?」
「すみません冗談です」
司が睨み付けると向日は謝罪をし、ごほんと咳払いした。
「よし、やるか」
「なにをだよ」
「七条もはよ座り。これやるまで帰れんから」
「………」
どうせ下らないことだよと直感が語りかけてきた。
司はしぶしぶ忍足の隣に座る。
メンバーは向日、宍戸、忍足、ジローは寝ている。
なんだこりゃ。
「…よし、では第9回!テスト珍解答晒し大会ィ!」
「パス。帰る。おつかれっしたー」
「ちょおまて七条!お前いなくなったら俺がこのカオスな場をまとめることになんねんで!?」
知るか。くだらねえ。
「前年通り、チャンピオンには600円相当の賞品が送られるぜ!」
「よしやるか」
「軽っ。七条安っ」
席につき直し、目の前の向日が今回のルール説明をしだした。
隣の忍足はまた始まったか、と眉を潜めた。
「おい忍足」
「ん?」
「…これ9回もやってんのか?」
「一年の時からな。チャンピオンには皆が一本ずつジュース奢ることになってんねん」
「なんだよその不名誉な副賞は。やるなら点数とかにしろよ」
忍足曰く、点数は争い事に発展するので却下。
皆が悲しい思いをせずテストを振り返るがモットーなので構想に構想を重ね、こうなったという。
一言言おう。
馬鹿か。
「…つまり自分の黒歴史を晒して笑いの種にするってことか」
「嫌な言い方やな」
「よしやるぞ!トップバッター、侑士!」
「えぇー…俺?」
嫌々ながら忍足はテスト用紙を吟味し出す。
とりあえず聞いていこう。
「こいつが珍解答言うとか、考えられねーんだけど」
司の疑問に宍戸がそーでもねーよ、と答える。
「忍足って結構狙ってくるんだぜ」
「マジ?」
「侑士は不意をつくのが上手いんだぜ!」
「………」
なんでこんなに楽しそうなんだろうか。
司にはわからなかった。
「じゃ、これにするわ」
「おっ、きたきた」
「えーじゃあ、国語の大問3の問2(1)を見てください」
「え、なんだこのノリ」
「いちいちうっせーよ七条!いいから聞け!」
向日に促され、しぶしぶ言われた問題を見る。
忍足は続ける。
「問題はね、藪蛇を使った短文を作りなさいゆーことなんですが、模範解答は
『うっかり口出しして藪蛇になる』
とかやねんけど、俺の解答はこちら」
どこから用意されたのか、忍足はフリップを持っていた。
それをひっくり返し、バン、と皆の前に出す。
忍足侑士の解答:
大変だ!薮から蛇が出てきたぞ!
「ブフッ!」
「ふはっ」
「テメェも十分狙ってんじゃねぇか!」
最後のは司である。
「テメェもやる気じゃねぇか!ムカついたけどクスッときた!」
「おおきに」
「褒めてねーよ!だいたいお前天才って呼ばれてんだろ!?いいのかよオイ!なんでちょっとアメリカンなんだよ!?っつーかこのフリップなんだよ!?」
「百均で買った」
「くっ…真面目に答えやがって…」
「ナイスツッコミや七条」
グッと親指を立てる忍足にイラッとしながら司は席についた。
「皆は?」
「皆!?全員の見せんの!?」
「ルール聞いてろよお前」
「じゃ、俺からな。俺は『薮蛇だとわかっていながら、彼に忠告した』」
「あれ、亮正解じゃん。七条は?」
「いや俺も正解。つまんねーから飛ばして」
「よしっ、じゃあ俺な!残念だけど侑士、お前より面白い自身ある」
「ほお。楽しみやな」
テストに面白いを追求するなと言いたい司だが、黙っていることにした。
「俺の答えはこれだ!じゃん!『新種の蛇・薮蛇石川県で発見!』」
「ぶっ!」
「………」
「…負けや」
宍戸が笑い、司は遠い目をし、忍足は負けを認めた。
司は思った。
ここに跡部がいたら、とても冷たい目をして「馬鹿か」と言うんじゃないかと。
…かえりてぇ。
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