氷帝

七条は日頃の行いのせいか、皆から一目置かれる存在になっている。まぁ、イケメンでそこそこ勉強ができて(いや本当にそこそこ)見た目に反して優秀なんだから致し方ない。と思うぜ俺は。

でも、だからといって何でも完璧にこなせるわけではないってことはお前らにもわかってほしい。

「お前ってさ」
「なんだよ」
「字、物凄く汚いよな」
「雑なだけだ」
「それが汚いっつってんだよ」

七条司は字が汚い。


宍戸は司から借りた英語のノートを凝視したが、字の汚さゆえ筆記体なのかそうじゃないのかさえわからなくなっていた。

「もうちょい綺麗に書けよ。もったいねぇ」
「うるせーな。自分の字の綺麗さを他人にまで押し付けんのはどうかと思うよ俺は」
「いやだってお前…なんだよこれ。aなのかuなのかわかんねぇよ」

どこが、と少しイラついた声で司は字の解読をする。
指差す単語は、書いた本人でさえ「んん?」と首を捻るものだった。

「これはaだな。アンティーク(antique)」
「解読すんのも一苦労だな」
「うっせーなお前も前後の文から察しろよ。なんだウンティーク(untique)って」
「あとここ!なんだよホッシ…ホッティング?(hothing)って!こんな英語あったか!?」
「ナッシング(nothing)だろーが!」

字の汚さゆえ、nがhに見えるという馬鹿っぷりである。

「お前字汚すぎ。忍足と日吉を見習えよ。あいつらの字丁寧すぎだと思ってたけどお前みるとあいつらすげえと思うわ」
「うるせぇな日本人に英語を書かせるからこういうことになんだよ」
「お前日本語も字汚ねぇぞ!?なんだこれ、『彼女て私は』って!もしかしてこの『て』は『と』なのか!?」
「当たり前だろ!なんだ『彼女て』って!関西人か!いや関西人でもこんなこと言わねぇわ!」

「と」が「て」に見えるという奇跡。
司の場合、「と」を一筆書きする癖があるため繋がって見えてしまうのだ。

「eなのかcなのかもわかんねぇ」
「上のほうになんかうまい具合に隙間があったらeだ」
「clectric…クレクトリ…ああ、エレクトリック(electric)か」
「フッ…なんだよ、板についてきたじゃねぇか」
「笑うな。そして上から目線をやめろ」

七条からノートを借りたことが間違いだったと、この時になって気づいた宍戸であった。


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