氷帝

部活中
毎度ながら跡部は相手からポイントを奪い、コート上で高らかに自分を賛美する。

「勝者は…俺だ」

キャーと沸き上がる歓声を浴びながら、跡部はコートから去る。
そんな奴についた名が「キング」。

まぁ俺から言わせりゃ

「ツラ汚しもいいとこだろ」
「お前本当に跡部のこと嫌いだよな」

宍戸が冷静につっこんだ。



「なーにがキングだあの泣きボクロのセンター分けが。どうせガキの頃のあだ名は「泣きボクロ」か「スネ夫」だろ」

ケッ、と司は毒を吐いた。

「跡部に聞こえないうちに話題を変えろ。ってか何でスネ夫なんだよ」
「まぁ跡部がキングって呼ばれてんのはわかるっちゃあわかるんだよ」
「あ?なんだよ珍しいな、お前が跡部を否定しないなんて」
「まぁ俺はよ、忍足が「天才」って呼ばれてるのがわかんねぇんだよ」
「あー…」
「ちょっと待て。何で宍戸までそんな目で俺を見んねん」

忍足がタイミングよく現れた。

「よぉ天才。調子はどうだ」
「うっわー腹立つなこいつ」

さっそく忍足をおちょくる司。完全に見下している。

「まぁ天才っつっても氷帝テニス部の中での天才だからな。俺から見ても忍足のテニスは上手いと思うぜ?」
「そうか?忍足のテニスってなんかネチネチしてて性格出てね?」
「お前もうちょい気ィ遣えや。…別に俺は天才ってあだ名気に入ってるわけじゃないねんで?跡部が勝手に言っとるだけやし。はっきり言うけど恥ずいわ」

ふぅ、とため息をつきながらいう忍足は、本気で嫌な様子。誰だって「天才」なんて呼ばれるのは馬鹿にされているようで嫌だろう。

「んだよ自信持てよ。天才なんてあだ名そうそうつけられねーんだから」
「…いや、あだ名じゃねぇだろ」

司がフォローをすると、忍足はそうか?と怪訝そうな顔をした。

「俺の中学のダチに「松尾」って奴がいるけど、そいつのあだ名「芭蕉」だし」
「えぇえ…」
「よく「芭蕉!一句詠んで!」って無茶ぶりされてたな」
「あーあるよな、偉人と苗字同じだと偉人の名前で呼ばれる奴」
「俺はようわからんのやけど」
「あと…クラス違うけど「杉田」って奴がいてさ。あいつは「玄白」って呼ばれてたらしい」
「うわ、絶対嫌だ」
「あだ名なんてそんなもんだろ。ちょっとしたことが原因でつけられる」
「まぁなぁ…。俺なんかこの眼鏡にしてから姉ちゃんにまでハリーポッター呼ばわりされるし」
「変えりゃいいだろ」
「七条も眼鏡だけど、お前なんか言われねぇの?」
「あー…。髪茶色にしてから弟にオリラジの藤森に似てるって言われたな…」
「「確かに」」
「ハモるな。別に俺あんなにチャラチャラしてねぇし、しゃべり方だってちゃんとしてるだろーが!」


「まぁお前の陰のあだ名、「お母さん」だもんな」
「性転換しとるしな」

喉まで出かかったその言葉を言ってしまえば司がキレることはもうわかっているので2人は気まずそうに目を逸らしたのだった。

「…なんだよ?」
「いや、なんも」


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