氷帝-1

「宍戸、お前ならよぉ」
「あ?」

国語、自習の時間。
走れ●ロスを要約して感想をレポートにしてまとめよ、という課題のもと、俺が必死こいてワークやらノートやらを見返していると、隣の席の七条が話しかけてきた。
話しかけてきたと言っても、こいつもまた教科書とにらめっこしていた。

「なんだよ?」
「お前さ、めちゃくちゃ仲いい奴が「俺の身代わりになってくれ」っつったら、なるか?」

真剣に聞いてくるもんだから、俺は少し考えてみた。

「……その身代わりの内容にもよるだろ」
「じゃあ勝手に身代わりにされてたらどうするよ」
「それはウゼェな。いくら仲いいからって、勝手にんなことされたら困るだろ」
「だよな。普通。やっぱセ●ヌンティウスって、馬鹿だよな」
「それ言っちゃ駄目だろ」

七条はたまにおかしなことを口走る。



「だって考えてみろよ。仲いい奴に知らんうちに身代わりだぜ?しかも妹の結婚式のために。俺ならキレて殴るね」
「いやまぁ普通そうなんだろうけどよ、セ●ヌンティウスと●ロスの間にはすげー友情があったんじゃねぇの?」

七条の言わんとすることはわかるけど、巨匠の作品にそこまで突っ込むか、普通。

「身代わりにされて怒らねぇ人間なんていねぇし、そんな友情ねぇよ絶対」
「いや言い切られても」
「じゃあお前考えてみろよ。向日に勝手に身代わりにされてたら」
「あー………。はっ倒すな」
「だろ?」

確かに、あいつにそんなことされたらはっ倒す。「ワリ亮、身代わりになって!」とか「ちょっとパン買ってきて!」みたいに言うんだろうし。なんか腹立ってきた。

「確かに友情とは言わねーな…。本当に親しい仲なら殴るくらいはしねぇとまた同じこと繰り返しそうだし」
「話が出来すぎだろ。俺が思うに見せしめに殺されるべきだね」
「重っ!!そこまでするか!?なんかグリム童話みてーだなオイ!」

そんな怖い話に脳内変換させるこいつの頭は結構すごいと思う。見習いたくはないけれど。

「「親しい仲でもむやみやたらと人を信用してはいけない」、「他人の命を奪った罪の重さ」を知るいい話じゃねぇか」
「イヤイヤ重すぎだろ。どっちかっつーとこの話って「諦めなければ何事もなし得る」みてぇな話だろ」

俺が言うと、七条は納得したのかふーん、と呟く。

「お前がレギュラー落ちした時みたいな?」
「そっ…そうだよ」
「なんか急に親近感わいてきた」
「なっ、何でだよ!」
「お前が●ロス。鳳がセ●ヌンティウス。王様が滝」
「なんで滝が出てくるんだよ!!しかもお前の話からしたら長太郎から殴られたあげく長太郎死ぬじゃねーか!」
「"宍戸は激怒した。滝のレギュラー昇格に"」
「そりゃまぁ納得できねぇ部分はあったわ!」
「まぁそんなジョークは置いといて。結果的には助かったわけだが俺は納得できないわけだ。その思いを今シャーペンに募らせる」
「勝手にしろ」

…こいつって、結構残念な性格してるよなぁ…。



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