07
「佐鳥みきなです。よろしくお願いします」
放課後、テニスコートにやってきました。何だかやってしまった感が満載というか今からでも逃げ出したいです。
「……」
「……」
だって、加藤先輩がめちゃくちゃ睨んでるんですよ。
やめてください怖いです。あなたの瞳で私の心壊れそうです。っていうか安心して下さい。私はあなたに危害を与えるために来たわけじゃありませんから本当に。
「合宿中だけ、佐鳥が俺たちのサポートをすることになった。質問のあるやつはいるか」
私の隣に立っている部長が部員を見渡します。
質問っていうか不満のある人ならいるんじゃないでしょうかほらあそこ。
「私一人でも十分だと思うけどなぁ」
ほらね。
加藤先輩がそう言うと、横目で日吉くんがギロリと睨み付けました。怖いです日吉くん。
忍足先輩は…至って普通?なんですかね。
宍戸先輩は迷惑そうな顔をしてました。
嫌われてるんだか好かれてるんだか…。
「アーン?お前の料理は壊滅的に下手じゃねぇか」
まるで少年漫画のヒロインのような人ですね加藤さんは。
料理が下手とは。
勝手な思い込みですが女の子たるもの料理くらいはできてたほうがいいと思うんですよ。
跡部部長の発言に加藤先輩は「そんなことないもん!」と抵抗。
ですが部員の皆さんは満場一致の表情です。どうやら本当らしい。
「佐鳥、お前料理はできるのか?」
「…まぁ、多少」
「なら食事関係はお前に任せた。頼んだぜ」
頼んだぜ、って跡部部長。
あなたの家の専属のコックをつれてくればいいだけの話では。
はい、と短く返事をして目をそらしました。
ああ、やっと帰れる。
「一応自己紹介とかしたほうがエエんちゃうの?」
忍足先輩…。
いいですよ別に面倒だし多分話すこともないんだから。
「そうだな」
のらないで下さい跡部部長。
もう帰して下さい。私にはお腹をすかせて待っている兄と妹にご飯を作らなきゃいけないんですから。
とまぁ心の中で訴えてもしょうがないので、しぶしぶよろしくお願いしますとメンバーの皆さんの挨拶を待ちます。
「部長の跡部景吾だ」
「忍足侑士や。佐鳥さん、よろしゅう」
一人ずつ名前と挨拶なんかを言ってもらい、最後にマネージャーの加藤先輩が満面の笑みを浮かべ言葉を並べました。
「加藤理沙だよ!マネージャー同士よろしくね!一緒に頑張ろ!」
うわぁ笑顔が眩しいです。
でも背後から「皆に近づいたら殺す」みたいな幻聴が聞こえた気がしたんですが気のせいでしょうか。
まぁ近づきませんよ。近づく気はさらさらないですし。
「はい。よろしくお願いします」
一応お辞儀をしておきます。二回目ですね、この人にお辞儀をするの。でもいざこざとか面倒事には巻き込まれたくないですし、ここは敬意を示すべきところです。
「おい、ジローはどうした」
跡部部長の声が響きました。
ジロー?まだそんな方がいるのでしょうか。
「今日もどっかで寝てるんと違うん?学校には来てたんやろ?」
「ああ。ラケットケースは持ってたし…昼寝でもしてるんだろ」
昼寝でもって…。
本当に部活してるんでしょうかこの部活。サボリ魔多くないですか。
「佐鳥、他にもう一人芥川っつー奴がいる。機会があったら紹介してやる」
「はぁ…」
今さらながら、この氷帝男子テニス部の現状に驚かされます。
自己紹介も終わったし、もう帰れる雰囲気ですよね。
「じゃあ、私帰ります」
「え!?」
「え?」
宍戸先輩が声をあげました。
え、だって帰ってもいいんでしょ?
跡部部長を見ると少し驚いた顔をしてました。
「…え?帰るのか?」
宍戸先輩の困惑した声が聞こえ、また宍戸先輩を見ます。
「…?ええ。一応私にも用事があるので」
「だ、だってお前マネージャーじゃ…」
向日先輩が困惑した声で言いました。
いや、だからマネージャーじゃないんですが。話聞いてくださいよ。
「私はマネージャーではありません。合宿の間だけ、皆さんをサポートするだけです。よって、通常時の部活は私は参加しません」
「!」
「ご安心下さい。ドリンクの作り方やスコアの付け方は独学で学びます。必ず合宿前にはマスターしますので」
言い切ると誰一人口を開きませんでした。
肯定ということでよろしいでしょうか。
「…では、さようなら。練習頑張って下さい」
お辞儀をしてそそくさとコートを出ました。
「へぇ…。おもしれーじゃねーの」
後ろで跡部部長の声が聞こえた気がしましたが、それが何だって話です。
さてと、卵でも買って帰りましょうか。
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