05
頑張りますと言ってみたものの、スポーツ関係は全く手付かずだと気づいたのは帰り道のことでした。
別に今からキャンセルするつもりはありませんが、何もわからずにマネージャーをしても加藤先輩と同類になってしまいます。
それは避けたいですね、はい。
宍戸先輩と日吉くんに了承してもらい、また後日テニス部にお邪魔させていただくことにしました。
あの雰囲気で行くのも億劫ですし。
まぁ、それが昨日の出来事です。
それが今日、その考えは一変しました。
「本当に!?みきな、マネージャーするの!?」
「いえマネージャーはしません。合宿の間だけ、手伝いをするだけです」
「マネージャーじゃん!」
「いえですから…」
質問責めされています。
友人の暁香さん。
彼女もテニス部のファンなのですが、私にテニス部の人たちが来たことにより、何かあるのではと探りをいれてきます。
何もありませんてば香さん。
「本当に?」
「本当です」
「信じたいけど信じられない」
「ひどいですね」
さすがに読んでいた本から顔をあげました。
友達じゃないですか。香さんの阿呆。友達といってもまだ2ヶ月ちょっとですけど。
「にしてもさ、よくやる気になったよね」
「ええまぁ…」
「日吉に頼まれたの?」
「まぁ…はい」
他にも二名ほどいましたが言わなくてもいいでしょう。
また本に目を落とします。
「…」
視線が痛いです。香さんがじっと見つめてきます。一体何ですか。
「……」
ちょっと無視してみましょう。
「おはよう」
そう思った矢先、右側から声が聞こえてきました。
咄嗟に振り向いてみると、日吉くんでした。
「おはようございます」
朝練お疲れ様です、と言うとああ、と言って席につきました。
本当に疲れたようです。大変そうですね。日吉くんの横顔を見ながらそう思いました。
また本に目を落とすと、前から手がのびてきて私の本を掴んだかと思うと、盗まれました。
……何をするのですか香さん。あとなぜそんなニヤニヤしてるんですか。
手の主は香さんです。
無視しようとしたことは謝るので返してください。
「ね、日吉の頼みでマネージャーするんでしょ?」
「なんだ暁。俺を巻き込むな」
「マネージャーではないですし日吉くんだけの頼みではないですが」
「わかったわかった、でさ、もしかしてさ、みきなって日吉が好き?」
香さんの言葉はきっと日吉くんの耳にも入ったのでしょう。
日吉くん、お茶を飲んでいたらむせたご様子。
ゴホゴホと咳き込んでいます。
「暁!お前っ、何言ってんだよガハっ、ゴホッ」
「落ち着いてください日吉くん。深呼吸です」
「だって、日吉の挨拶に顔みて答えてたし」
「社交辞令というものを知っていますか」
「それに、日吉が好きならみきながマネージャーをする合点がつく!」
「他にも二人に頼まれました」
「つまり、みきなは日吉が好きなんでしょ?」
「何を藪から棒に」
「日吉だって案外まんざらでもないんじゃなぁい?」
悪女のように笑う香さん。
明らかに楽しんでます。
あなたテニス部のファンじゃありませんでしたっけ。
「んなっ…!」
日吉くん顔が赤いです。
そりゃまぁ、年頃の男子が好きとか嫌いとか聞いてしまえば当然の反応ですよね。
任せてください、私がフォローしておきます。
「そんなわけないじゃないですか。日吉くんをからかわないであげてください」
「顔赤いし」
「年頃の男性なら当たり前の反応ですよ」
「まぁ、日吉はいいや。みきなはどうなのよ、好きなんじゃないの?」
「日吉くんは優しいし頭もいいです。好きか嫌いかでは好きなのかもしれません。ですが恋愛対象に見たことないです」
まぁ、これだけ言えば大丈夫でしょう。
香さんは日吉くんを、哀れみを含んだ目で見つめました。挙げ句、ため息までつきました。失礼ですよ。
日吉くんをみるとまだ顔が赤いです。
手で顔を隠していますが耳まで真っ赤です。
香さんは本を机に置き、「頑張れ日吉」と言いながら席に戻っていきました。
そんな香さんに日吉くんは「うるさい黙れ」と言って香さんを見送りました。
最後に日吉くんと視線があったのですがすぐそらされました。
…え、何か私変なこと言いましたか。
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