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青学の海堂くんと桃城くん、そして白い帽子を被った一年生リョーマ様、もとい越前くんが残りを運んでくれました。
海堂くんと鳳くんに、さっきのことは恥ずかしいのであまり人に言わないでください、とこっそり耳打ちすると、海堂くんは気まずそうな顔をしましたが鳳くんと私の手前、ああわかったと言ってくれました。流石です。

ウォータージャグに氷とさっき作ったスポーツドリンクを入れて、私の仕事は終わりです。

「持つね」
「あ、ありがとうございます」

ウォータージャグって結構重いんですが、さすが男子、というか鳳くん。軽々持ち上げました。

「二つ持てますか?」
「任せて」

自信満々に答えると、今度は麦茶が入ったウォータージャグを左手で持ちました。流石。

私はと言いますと、紙コップが入ったレジ袋を持っています。

「練習どうですか?」
「うん、順調だよ。でもコート足りなくて、簡易コート作ってボレー練習してた人もいた。明日からは立海も来るのに大丈夫かなって、ちょっと心配してる」

廊下を歩きながらのたわいない会話。学校でもあまり話さない鳳くんと、こんな場所で話したり、ましてや手伝ったり手伝ってもらったりするなんて考えてもみませんでした。
今さらですが、ここ学校じゃないんだな、と思いました。

鳳くんの話を聞いている限り、氷帝の皆さんは頑張っているようですし、加藤先輩も頑張っているようです。

「…そういえば、芥川先輩は?」
「えっ?なんで?」

芥川先輩。どうしてるんでしょう。ちゃんと練習してるんでしょうか。

「前に学校で会ったとき、部活にあまり参加してないと言っていたので…」
「えっ」

でも今回、他校の人たちもいるし芥川先輩なら面白がりそうですがどうなんでしょうか。部活の雰囲気も前に比べたら良くなったと思うんですが。

「…元気ですか、あの人」
「えっ、うん、元気だよ?青学の乾先輩と打ち合いしてたし…」
「あ、ちゃんと練習してるんですね」

しかしあの乾先輩と。何故。全然想像できないんですが。もしかして仲がよかったりするんですかね。

「佐鳥さん」
「はい?」

なんて考えていると、鳳くんに名前を呼ばれました。鳳くんを見ると、気まずそうに口の端をピクッと動かし、目をそらしえっと、と口をまごまごしました。

「その、違ったら違うって言ってほしいんだけど」
「はぁ…」
「佐鳥さん、って、ジロー先輩のことが好きだったりするの?」
「え。いや全くそんなことないですけど」
「え」
「え?」

ぴたり、と同時に足が止まりました。
鳳くんは目を見開いてます。私も目を見開いてます。

私もまさかそんなこと聞かれるとは思っていませんでしたがこんなに驚かれるとも思っていませんでした。

「え、恋愛感情のこと…ですよね?私は芥川先輩にそこまでの好意は抱いてませんが…」
「えっ…そうなの?」
「はい」

それを聞いて鳳くんは眉をさげ、たと思ったらまた気まずそうに目を伏せました。

「そっか、彼氏いるみたいだし」
「え?芥川先輩に?」
「えっ?」
「えっ?」

と、また二人一緒になって驚きました。

「えっ、ジロー先輩彼氏いるの!?彼氏!?」
「えっ、いやそれは私が聞きたいです」
「えっ…あっ、いや、俺が言ったのは佐鳥さん彼氏いるよねって話で」
「えっ、私彼氏なんていませんけど」
「えっ」
「えっ」

トータル何回「えっ」って言ったんでしょう。

まぁそれはいいとして、最後の私の「えっ」で辺りはシーン、と静かになりました。
しかしすぐに鳳くんはハッとして、必死に何かを訴えようとするも上手く言葉に出来ず両手はふさがっているのであわあわし出しました。

「あっ、朝、一緒に学校に来た人は?」
「朝…あ、ああ、いや、違います、あれは大きな誤解です。朝鳳くんが見たのは私の兄です。決して彼氏ではないです」
「えっ…あれ、お兄さん!?似てなっ…いよね!?」
「よく言われます」
「ってことは…彼氏は?」
「いません」

それを聞くと鳳くんは顔を真っ赤に紅潮させ、目を丸くしました。

「ごっ、ごめん!俺!デリカシーなくて、馬鹿で、失礼なこと聞いちゃって…!本当にごめん!セクハラだよね!ああ最低だ、思い込みなんかでっ…!」
「いえそんな」
「本当にごめん…!と、当分話しかけたりしないから、安心して!じゃあ先行くね!」
「えっ」

しどろどろとでも言いますか慌てすぎと言いますか、鳳くんはそう言ってダッシュでウォータージャグ二つ持って外に出て行きました。

なんで私は謝られたのでしょう。
お前に彼氏いるわけないよな心の傷えぐったりして本当にごめん、とかそういう謝罪でしょうか。

なんだかよくわかりませんが、全て幹也のせいで片付けられます。


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