38-1佐鳥は弱音を吐くことも、無理に笑うこともしなかった。ただ黙々と、機械のように残骸を拾っていた。
少し呆れたその顔は、今までの経緯を物語っているようで、なんとなくだけど、ここに来たのは本心じゃねぇんだろうな、と思った。
「すいません、ありがとうございます」
「あ、ああ…」
「優しいですね、海堂くんは」
「!?」
いきなり何を言うのかと驚いたが、佐鳥の表情は変わっていなかった。
「なにがあったか、聞かないから」
「あ…ああ」
そういうことか、と内心わかったように取り繕ったが、それのどこが優しいのか俺にはいまいちわからなかった。
佐鳥はすっと目を細め、おぼんに手を添えた。
「それでいいと思います。女は面倒だから。私たちのことは気にせず、合宿してください」
「…自分勝手な話だな。あんなもん見せといて」
「実にすみません。他言無用でお願いします」
「黙認しろってか?」
「ええまぁ、そうですね。手伝ってくれてありがとうございます」
居心地が悪くなったのか、佐鳥は無理矢理話を切り上げ、立ち上がり建物の中に入っていった。
――絶対なんかあんだろ。
俺の直感がそう語りかける。
さっきの練習でも、氷帝の奴らはなんかおかしかった。弱くなったっつったら失礼だが、力が落ちてるやつが何人かいる。
しかもあの二人のマネージャーときた。
「…胸くそ悪ィ……」
なにしてんだ、氷帝は。
見られた。もういい、青学は除外しよう。だいたいあの一年の女二人と、顧問も気に入らなかったし、いいや。やめやめ。
まだ立海がいる。明日からだっけ、来るの。
っていうか。
ダンッ!と鈍い音がした。
理沙が壁を殴ったのだ。
無事なことに、誰にも見られてない。
理沙は押さえきれないイラつきに、心底腹が立っていた。
「ああもうっ…!」
拳を握りしめる。伸ばした爪が皮膚に食い込んできたが、そんなのどうでもよかった。
「やるなら…徹底的にっ…!」
怪しい一人言を呟き、理沙は進路を変えた。
誰かが聞いていたとは知らずに。
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