37-2いきなりしゃがんで何をするのかと思えば、佐鳥みきなはぐちゃぐちゃになったおにぎりをおぼんの上にのせだした。
うーわ、傑作!
目に涙をためながら拾ってるのが容易に想像できるわ。
さぁて、もう一押しかなぁ?
「なに?それみんなに食べさせる気?」
「…」
ピタッ、と手が止まった。けれどまた動かした。
それが可笑しくて、鼻で笑っちゃった。
ようし、もう一回。
私はしゃがんで、佐鳥の顔を見る。
「…冗談だけどさ。まぁ、今度からはこういうことはしないでね?迷惑だから、さ」
私がにっこり笑うと、佐鳥はゆっくり顔をあげた。
だぁいじょうぶ、泣き顔見たって誰にも言ってあげないから。私は優しいもん。
「……」
何も言わずに顔をあげた佐鳥。…ってなんだ。泣いてないじゃん。つまんないの。
私がもう一回笑うと、佐鳥はぷいと顔を逸らした。
そして、
「…どっちが」
と、静かに呟いた。
「…は?」
なに?なになになになになに?
なにこいつ。キモッ。なに?意味わかんない。
なに強がってんの?
大体…なに!?観月くんたちと仲良くなって、私を馬鹿にして…こんなんただのアバズレじゃん!
気づいたら私は佐鳥の手首を掴んで立ち上がっていた。
「ちょっと、みきなちゃん!?言っていいことと悪いことがあるよ!?」
「…え?」
「とぼけんなっ!」
「!?オイッ、あんたらなにしてんだっ」
声が聞こえてきた。
振り返ると、青学の海堂くんがいた。
状況に気付いたのか、こっちに走ってきた。
クソッ、こいつのせいでっ…!
もう一度佐鳥を見ると、呆けた顔をしながら私を見ていた。
「ッ…!みきなちゃん!今度はしっかりしてよね!」
「……はい」
かろうじて返事をしたので、私は手を離して玄関へ向かう。
ムカついたので肩にぶつかったら、こいつわざと倒れやがった。ムカつく、ムカつく。
ムカつくムカつくムカつく!!
目の前にいる、確か、海堂くん、が、私に手を差し出してきました。
私がそれを掴むと、もう片方の手で私の腕を持ち、立たせてくれました。粉うこと無き紳士です。
「大丈夫か!?どうしたんだ、これ」
「…ごめんなさい、不注意で、落としてしまいました」
「それよりさっきの、怪我はあんのか?…なんか言われたのか?」
「いえいえ、そんな大層なものじゃないです。…ありがとうございます」
とりあえず、早くこれを片付けないと。面倒なことになります。
散らばったおにぎりの残骸を集めていると、海堂くんもその場にしゃがみ、散らばった米粒を拾い集めてくれました。
「すみません、ありがとうございます」
「…あんま気にすんな」
「え?」
「不注意は誰にだってあんだろ。だから…アレだ。気にすんな。なに言われたか知らねーけど、あの先輩も悪いんだろ」
「…多分」
「だったらアンタは悪くねぇだろ」
そう言って海堂くんは、不器用ながらにも私を励ましてくれました。
…それにしても、加藤先輩は何をあんなに怒っていたんでしょう。
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