04

玄関につく頃にはだいぶ時間がたっていました。

図書室にいくと待っていたのは本の開封作業。図書委員ではないんですけどね。
そんなことをしているともう5時でした。一時間作業していたことになります。
忍足先輩喜んだでしょうね。一時間も部活サボれるんですから。

そしてなぜだか、忍足先輩の声が脳でリピートされてます。
雰囲気が悪い、大嫌い、マネージャー。

加藤先輩を辞めさせたら万事上手くいくのでは、と日吉くんに聞いたことがあります。
しかし日吉くんは、本人の意思じゃない退部は体罰にカウントされるかもしれないから、榊先生もそれはできないらしい、と言っていました。

どうやら私が思っているより複雑な問題らしいです。

でもだからと言って私がマネージャーをしても変わらないと思います。

「……」

ごちゃごちゃで単純で複雑な問題。
とりあえず今日は帰りましょうそうしましょう。

靴に履き替えて外にでると、見たことある人物がいました。

「あんたが佐鳥、だよな?」

厄介事に巻き込まれる可能性が9割だと頭の中で計算すると、私は全速力で校門に向かって走りました。

こんなときのために靴をローファーではなくスニーカーにしておいてよかった。

「ちょっ、待てぇえ!」

うわっ、走ってきた。追いかけてきました。しかも速い。めちゃくちゃ速い。
帽子さん、何か私悪いことしましたか、ねぇ。

「つっ…かまえたぁ!」
「うわっ!?」

振り切ろうとした左腕を掴まれ、変な声をあげて私は後方に倒れました。
支えてくれたのはもちろん、帽子さんでした。



「何で逃げたんだ?」
「あ、いや…。なんかめんどくさいことに巻き込まれそうだなと思ってしまい…。あの、すみませんでした」
「いや、俺こそ悪かった、な。用件言わなかったからよ」

多分用件を言われても逃げたと思います。だってあなたテニス部でしょう。

あのあとすぐに謝られ、とにかくちょっと付き合ってくれと言われ、わけもわからず彼のあとをついていきます。
名前は宍戸さんというようです。

「…昼休み、跡部が来たんだってな」
「あ…はい」
「マネージャーの話、断ったんだってな」
「すみません」
「別に責めてるわけじゃねぇんだ。…でも、俺も、どっちかといったらやってほしくてよ」
「…そんなに、部の雰囲気悪いんですか?」
「…だな」

目をあわせずにそう言った宍戸先輩。
背中から哀愁が漂っています。

「…加藤がきてから、なんかおかしくなってな」
「……」

やはり加藤先輩。

「…俺のダブルスのパートナー、前からサーブの成功率低くてよ。放課後残って練習してたんだけど、今は加藤と一緒に帰ることを優先しててよ」
「……」
「なんかいろいろ、崩れてきてるんだ」

部の雰囲気も、二人の息も、だいぶ悪くなってしまったみたいです。

「……あれ、見てくれ」

着いたのはテニスコート。
そこにあった光景に、目を疑いました。

いつもなら、と言ったら可笑しいかもしれませんが、以前なら学年問わず女子が見に来るはずの放課後練習。
でも今は閑散としています。

「え…?テニス部ですよね?」
「テニス部だ。外野の女子は、いつの間にか立ち入り禁止例出たらしくて、今は誰もいねぇよ」
「はぁ…」

ボールの音がきゃははという笑い声にかき消され、テニスラケットはほったらかされ、後輩たちは座り込み無駄口を叩く。一年生は気まずそうにラケットを持って素振りの練習。

練習中だというのにコートの中に入り選手にドリンクを渡すマネージャー。
それに乗っかる選手達。
試合は中断されていました。
忍足先輩もいましたが、彼らとは距離をおいています。

これは非道い…。これが我が男子テニス部。

「何というか…ひどいですね…」
「だろ…?止めても聞く耳持たねぇし…どんどん弱くなってるのがわかるんだ」
「……」
「なぁ佐鳥、マネージャーしろとは言わねぇ。合宿の期間だけでも、俺たちを手伝ってくれねぇか。いい奴みたいだし、頼む」

宍戸先輩は帽子をとって、私にお辞儀をしてきました。

「佐鳥」

後ろから声が聞こえました。
そこには日吉くん。

「日吉くん…」
「佐鳥、俺からも頼む。…駄目か」
「いや…」
「男ばっかだけど、他校から女子も何人か来るんだ。どうだ?」
「…合宿の間だけなら」

いいですよ、と言うと、宍戸先輩は本当か、と嬉しそうに言いました。

やってしまった感が半端ないですが、加藤先輩にぞっこんな人たちがほとんどだと考えればまずその人たちと関わることはありません。残った少数の人たちとだけ関わればいいと考えれば、まぁ社会勉強だと思って頑張れる気がします。

なんてことを偉そうに考えてますが、本当の理由はこれ以上関わりたくないので渋々折れたこと、三人の押しにやられたこと。この二つだと思います。


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