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「リコ、ちょっと外出てくる」
「え、どうかした?」
マネージャーの佐鳥先輩が携帯電話を持って、忙しげにドリンクを置いていきました。
「みきなから電話きてた。なんかあったのかもしれん」
「ああうん、いいよ行ってきな」
「悪い、そこにメモあっから見といて」
そう言うと先輩は出入口へと走っていきました。
「…誰ですか?」
「ん?妹よ」
「妹いたんですか、佐鳥先輩」
「うん。…じゃ、次、確実に点取ってくわよ!」
監督の声が響いたので、ボクの小さな疑問は消えた。
とりあえず、黄瀬くんを攻略しなければ。
「もしもし?どうした?」
『スポーツドリンクの作り方を忘れたんで、聞こうかと。忙しいならいいです』
「ああいいよ、大丈夫」
どうやらちゃんとマネージャーをやっているらしい。
行く前は本当にテニスを勉強してんのかってくらい落ち着いてたというか何もしてなかったので不安だったけど、まぁ大丈夫かな。
まさか妹がテニス部の合宿に行くなんて面倒なことをするとは思わなかったなぁ。
しかもあの男子テニス部。
跡部が部長やってんのか。
「彼氏できたかー?」
『馬鹿なこと言ってないで早く教えてください』
「アララ。だって男ばっかなんだろ?跡部とかいるの?」
『いますよ。あまり関わってないですけど。早く、レモン用意したんで』
「じゃあまず…って待って、何人分?」
『よくわからないんで一人分のだけ教えてくれたらあとはこっちで作ります』
「じゃあまずレモン切って、搾って」
『はい』
手際のいい妹である。
榊先生が連れていこうとするのも頷ける。
「蜂蜜適量と、塩小さじ一杯と水1リットル混ぜて」
『はい』
「で、レモン汁混ぜる。んで冷やせばオッケー」
『わかりました。じゃあさよなら』
ピッ、と直ぐ様切られた。
辛辣すぎないか妹よ。
本当にドリンクの作り方だけ知りたかったらしい。
まぁ合宿中に携帯いじくってたら怒られるよなそりゃ。
「佐鳥先輩、終わりました?監督が呼んでるんですけど」
「あっ、終わった終わったー。今行くから」
携帯を閉じて、俺は体育館へ戻った。
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