33

合宿一日目。

氷帝は榊監督の指示があったので、俺含め皆自由に試合をしていた。

忍足先輩と向日先輩のダブルス。相手は青学の不二と河村。現在氷帝がリード。あ、点取られた。

「オラ忍足!走れ!」
「さっきのは忍足先輩取れましたよ」
「あーもう、外野うるさいわ」

野次を飛ばす俺と宍戸先輩に忍足先輩は反論する。早く終わってくれないと、俺らが試合できないんですよ。

何故か俺は宍戸先輩と組むことになった。まぁ、自由だから誰とペア組もうが構わないんだろうけども。
で、相手はというと、青学の越前と海堂。なんだかマニアックな組み合わせだ。

隣にいた宍戸先輩が忍足先輩に呼び出され、ラケットを置いてコートへ向かった。
どうやら副審をするらしい。ちなみに主審は樺地である。

当分終わりそうにない。
俺はフェンスに寄りかかった。

「あ、越前くんいた」
「!」

すると真横から声。

何かと思って横を見たら、まさかの伊武がいた。
俺に気づくと、ああどうもと気だるそうに挨拶した。

「今この試合どうなってんの?」
「…3‐2でこっちがリードしてる」
「ふーん…。…じゃあいいや。見てるの邪魔するのも悪いし」
「お前試合は?」
「コート全部使われててできない。空いてるとこ探してるとこ。…ああそうそう、君らんとこのマネージャー、何なの?」
「は?」

伊武は眉をひそめた。
あっち、とラケットで右を指すと、確かにマネージャーがいた。
佐鳥じゃなくて、加藤先輩のほうだ。

…また何をやってるんだ。あの人。椅子に座りながらなんだか奇声をあげているようだ。

「スコアの付け方わかんないとかほざいてたよ」
「すまん。それは誠意を持って謝る」

やっぱりか。
こうなるだろうと薄々思っていたところだ。

俺がげんなりしているその間も伊武は何かブツブツ言っていた。

「話は聞いてたけど、ああもひどいと何も言えないよ」
「!…」
「君らがみきなに応援頼んだのもわかる気がする」

伊武はそう言うとフェンスに寄りかかった。
大変だね君らも、と他人事のように呟く。

「…お前、午後空いてるか?」
「は?なに急に」
「試合しないか。シングルス。どうせなら佐鳥を審判にして」
「!みきなを?」

驚いてやがる。なんかムカついた。

「……っていうかみきな何処にいるの。さっきから見てないんだけど」
「…さぁ。多分昼の準備じゃないのか?あと話をそらすな。やるのか、やらないのか?」
「何をムキになってるかは知らないけど、いいよ。別に。暇だしさ。ちょうど俺も君とやりたかったし」
「それは奇遇だな」
「……さっきから何を怒ってんの?俺なんかしたっけ、君に」
「別に。…お前、佐鳥と仲いいんだな」
「?…まぁ、家隣同士だし」
「とっ…!?」
「?」

隣同士?なんだそれ。
さりげなく聞いた質問なのに予想外の答えが返ってきた。

目を見開いた俺に、伊武は目を細めた。

「…まさか、俺とみきなが付き合ってるとか思ったわけ?」
「べっ、別にそんなわけじゃ…」
「困るよなーホント。本人に聞きもしないでそんなこと考えつくとか。最近の若者は下の名前で呼びあってるだけですぐデキてるだなんだと誤解する」
「悪かったな!」
「幸か不幸か知らないけど、俺ら別にそんな仲じゃないから」
「……何故それを俺に言う」
「知りたそうにしてたから」

反論できん。
くそ、すまし顔ムカつく。
っていうか佐鳥も佐鳥だ。朝の時点で教えてくれればよかったものを。一人で勝手に勘違いしてアホらしい。

「そろそろ戻る」
「!…ああ」
「………」
「…なんだよ」

フイ、と顔を逸らして伊武はコートから出ていった。きっとDコートに行くんだろう。

コートに目をやった。
まだ試合は終わらないらしい。


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