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ここだけの話、私はおにぎりを素手で作ることができません。

理由としては、米が熱くて手がもたないということと、食べる人からしたら他人が握った米を安心して食べられるかと言ったらそうでもないわけですよ。
こっちもささくれとか、爪とか、衛生面を考慮しているつもりでも、なんだかなぁ、という先入観といいますか、不安要素ってありますよね。

そんな人たちが私たちの作ったおにぎりを食べるのを拒むものならばこちらは「じゃあ食べなきゃいいじゃないですか」と言えばいいんですが、そういうわけにはいかないんですよね。
「じゃあおにぎりなんか作るな」と言われるのがオチです。
別に食べてほしくて作ってるわけじゃないんですけどね。

とか内心思いながら、私はさくさくとおにぎりを作っています。サランラップを使って。

サランラップいいですよ。
手に米はつかないし、形が崩れる心配もないし、何より安心安全。これで文句は言えないはずです。
具がなかったのでふりかけをまぜただけ。文句は言わせません。ちゃんと鮭、卵、鰹節の三種類です。

プラス小坂田さんが今せっせと作っている、というか焼いているソーセージと卵焼き。
バランスがとれているのかはよくわかりませんが、まぁ何とかなるでしょう。

「先輩作るのすごい早いですね!もう20個くらいじゃないですか?」
「いえ、まだまだ。先は長いです」

というか、終わりが見えそうにありません。
大丈夫ですかね、米は足りるんですかね。今も米を炊いてるんですが。

それにしても氷帝学園は本当にお金持ちだなぁと実感します。
氷帝学園というか、榊先生がお金持ちなんですかね。

調理器具やら食器やら、全部榊先生が用意してくださったらしいんです。太っ腹。
そしてさらに太っ腹なのが、炊飯器がなんと4台あるっていう。多分一番いいやつなんじゃないでしょうか。
この手伝いをする代わりにどれか一台貰えませんかね。


ああ、それにしても手が熱い。サランラップ越しとはいえ炊きたての米を握るのは慣れないものです。

なんかこう、だんだんとなんで自分ここにいるんだろう、みたいな気持ちになります。
おにぎり握りながら何考えてんでしょうね、私は。


一方小坂田さんは楽しそうです。きっとこの合宿が楽しみで仕方なかったのでしょう。

まぁ、私も楽しくないわけではないですよ。学校休めるし。幹也とかいないし。

後ろ姿の小坂田さん。やっぱりどことなく楽しそうです。

「…小坂田さん」

そんな背中に語りかけます。

「えっ、どうかしました?」
「なんでこの合宿に来たんですか?」
「なんで…って、まぁ、一番はリョーマ様との距離が縮まんないかなーって!確かに不純な動機とか思われちゃうかもしれないですけど、恋する女の子は行動あるのみですから!何日間もリョーマ様に会えないのはつまんないし!」

それに、と言って小坂田さんが続けます。

「桜乃がね、誘ってくれたんです。桜乃だってリョーマ様のこと好きなくせに、抜け駆けっていうか…独り占めしようと思えばできたのに、それでも私を誘ってくれて、嬉しかったから」
「…」
「ま、要約すると、リョーマ様と桜乃がいたから、です!だから別に仕事がどんなに大変でもここにいるんだからそれくらいしないとって思うんです!…ああ、ごめんなさい先輩!なんか勝手にベラベラと…」
「いえいえ、いいお話が聞けました。…それより、卵焼き、大丈夫ですか?」
「へっ?…ああっ!やばっ、焦がしすぎた!」
「慌てることなかれです。もう一回卵を流せばなんとか…」
「おおっ…!先輩主婦みたい!」
「主婦みたいなもんですから」

やっぱり香さんもいたらよかったのにな。


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