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ある人がね、こんなことを言ったらしいんですよ。やらないで後悔するならやって後悔しろ、と。
私はそれを聞いてなんか深いなーとか思ったんですよ、当時。
でも今ならそれは違うんじゃないかなと思うんですよね。
やって後悔するのは、やらないで後悔するよりだいぶ精神にきますよ。
今の自分は、まさにその通りです。

「ねーみきなちゃん、なに話してたの?」

うん、やっぱり来るべきじゃなかったんです。
こんなに美男子が多いなんて聞いてないし、まさか加藤先輩がこんな面食いな方で本当にミーハーだったなんて。
ああ、迂闊でしたね。

今の状況を説明致します。
私ちょっと尋問されています。加藤先輩にね。面倒ですね。この場合なんと答えたらいいのでしょうか。

「いえ、特には…。ここにいたらルドルフの人達が来て…簡単な自己紹介を」
「ふーん…」

目を細めた先輩。
気にくわない、と言いたげな顔ですね。

「…うん、あのさぁみきなちゃん」
「え?ああ…はい」
「みきなちゃんはさ、いわば単なるお手伝いだからさ。私たちマネージャーと選手の邪魔にならないよう、すこし退いた立場にいるべきだと思うの」
「…それは最もですね」

何処の口が言っているんだか。
うーん、やっぱり私はこの人が苦手、嫌いなようです。
大体…なんで私がこんなボロクソ言われなきゃいけないんでしょう。
あー…イライラする。

「…聞いてる?」
「あ…はい。聞いてます。つまり私は言われたことをすればいいんですね」
「そ!」

にんまり笑う先輩。
うわぁ、あからさまにご機嫌なようで。なんて言うんでしょうこれ。傍若無人?八方美人?とりあえず我が儘。
後で深司くんに八つ当たりに行こう。物に当たるわけにもいかないし。何もせずいると顔に出るんですよ私。こういう時知り合いがいると本当に便利ですよね。

「…疲れた」
「え?まだ何も始まってないよ?」
「疲れてないのに疲れたって言ってしまうんです、私。あまり気にしないでください」

いや、本当に疲れてるんですけどね。

「おー、待たせてすまないねぇ」

すると竜崎先生がやって来ました。後ろに竜崎さんと小坂田さんがいます。
なんでもっと早く来てくれなかったんでしょう。

「じゃ、早速仕事をしてもらおうかね。お手並み拝見といくよ」

まだ始まったばっかなんだからね、と笑う先生。
そうなんですよ、これからですよ地獄は。

「加藤と桜乃。あんたらは外で待機。榊から何をしたらいいか聞きな。大方スコア付けかボール拾いだろうけどね。しっかりやるんだよ」

はい、と二人が返事をしました。はて。私と小坂田さんは何をすればいいのでしょうか。

「で、肝心のお前たちは手分けしてドリンク作りと食事の仕込みだ。合宿の間の昼はこっちに来ないで、おにぎりだとかパンだとか、手軽なものを外で食べることにする。食べ盛りの中学生だからね、遠慮しないでじゃんじゃん作っておくれ」

…成る程。つまりここでの食事は朝と夜のみ。意外と本格的です。

「じゃ、頼んだよ」
「任せてください!佐鳥先輩っ、頑張りましょうね!」
「はい、頑張りましょう」

とりあえず私が安心したのは、あまり男子と関わらないでいられること。裏方仕事、頑張りましょう。


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