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加藤って人が来てから、佐鳥の様子が変だ。
なんというか、目が死んでる。さっきまで俺たちをみていた目とは違って、なんて言うんだろうな。こう、生き生きしてないというか。
無表情は変わってないけど、何だろうな。何か変だ。

それに比べ観月さんに話しかける加藤さんは生き生きしてる。元気だな、この人。

佐鳥は二人を見るでもなく、また俺たちを見るでもなく、ただ何処か遠くを見ていた。

「…では、すみません。僕たちの自己紹介は後程。さ、皆さん行きますよ」

急に観月さんが話を終わらせたものだから驚いた。
佐鳥さん、と観月さんが言うと佐鳥ははっとしたのか肩を揺らし、観月さんを見た。

「お仕事、頑張ってくださいね。加藤さんも」

佐鳥は小さく会釈をして、加藤さんはうん、と元気な声をだした。
さ、行きましょうかと観月さんはそそくさと出口へ向かっていったので、俺は慌ててラケットケースを背負った。

その時佐鳥と目が合って慌てて逸らした。何故だか耳まで熱くなった気がした。
そんな自分にも驚いたが、加藤さんが佐鳥を睨んでいることが気になった。



「別に、まだ時間はあるんですから自己紹介くらいしたって良かったんじゃないですか?」

そう言うと、観月さんはクスリと笑った。

「しても良かったんですけど、これ以上あそこにいるのは佐鳥さんに申し訳ないですから」
「佐鳥?」

何でそこに佐鳥が出てくるんだ。

「おや、祐太くんは気がつかなかったんですね」
「何を?」
「佐鳥さん、きっとあの加藤さんが苦手なんですね」
「え…そうなんですか?」

だからあんな雰囲気だったのか?
…いや、待てよ。

「苦手な奴と二人っきりって、そっちのほうが悪いでしょ!?」
「うーん、駄目ですねぇ。祐太くんは女性を見る目がありませんね」
「はぁ!?」
「加藤さんは、我々と佐鳥さんが仲良くなっているのが気にくわないんです。あの人が入ってきた時、佐鳥さんを睨んでいたでしょう?それが証拠です」

この人、そんなところまで見てたのかよ。

「だから、あの場から去って我々と佐鳥さんは何も関係ないですよ、と証明する必要があったんです」
「いや、でもですよ?だったら加藤さんとも話をするべきなんじゃないですか?」
「おや、何故?」
「何故って…。加藤さんは佐鳥が俺らと仲良いのが嫌なんでしょ?だったら加藤さんと仲良くなって佐鳥は関係ないと思わせたほうがよくないですか?なんで挑発するようなことしたんです?」
「ああ、僕、ああいうタイプの女性嫌いなんです」

聞き間違いかと思って観月さんを見たけど、本人は澄ました顔をしていた。

「だから、関わりたくなかったんですよ」
「…それだけ?」
「少しお灸を据える感覚でああ言ったんです。おかけで、少しすっきりしました」

んふっ、と上機嫌な観月さん。
この人侮れねぇな。ホントによ。

「いや、でも…さすがに二人っきりは…」
「心配性ですねぇ祐太くんは。大丈夫ですよ。佐鳥さんは強いですから。いや、強いと言うより無関心と言いますか」
「無関心?」
「つまり、加藤さんが何を言おうと何をしようと、佐鳥さんはどうでもいい、関係ない、と思っているんですよ。だから平気です」
「平気って…」
「ああ見えて佐鳥さんは怖い面を持ってますね」

自己解決をしたのか、観月さんはまた笑った。
一方俺は、観月さんが言いたいことはよくわからないけど佐鳥は確かに強いと思う。
どこが怖いのか、わからないけど。


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