25

「佐鳥」
「!」

誰かが私の肩を掴みました。
振りかえると、日吉くんが荷物を持って立っています。
深司くんと神尾くんは、「は?」と小さな声で呟きました。
は、って失礼ですよ。

日吉くんがそれを聞いていたのかわかりませんが、構わず話し続けます。

「…部屋に一回戻って、氷帝だけで集まることになった。行くぞ」
「あ、はいわかりました。じゃあ深司くん、神尾くん、また後で」
「…ん」
「あ、じゃあな」

二人と別れます。日吉くんがやっと肩に置いた手を離してくれました。

「…」
「…?どうかしましたか?」
「…不動峰の伊武…だよな?」
「深司くんのことですか?はい、彼は不動峰です」

そうか、と小さく言うと私の数歩先を歩きます。自分のテニスラケットと、荷物、そして私の荷物を持った日吉くん。

「あの、日吉くん。荷物、私が持ちます」
「…いい。遠慮するな」
「いや、でもやっぱり悪いし…」
「持ちたくて持ってるんだ。気にしなくていい」
「え」
「!」

私が声をだすと、日吉くんは立ち止まり私を見ました。

「いや、別に変な意味じゃなく……なんというか…か、監督に頼まれた」
「あ、そうなんですか」
「…ああ」

私が納得すると、日吉くんはまた歩き初めました。前髪をいじっているのか、後ろから見ると髪が揺れています。
この人も髪サラサラだなぁ。
シャンプーとか何使ってるんだろう。私髪癖っ毛だからなぁ。サラサラヘアに憧れます。縮毛矯正かけたい。
幹也も癖っ毛だし。鷹那だけサラサラなんですよね。何なんでしょう、この不条理。

ぼーっと日吉くんの背中というか髪の毛を見ていると、ジャージの襟が折れているのに気づきました。

「日吉くん」
「?」
「ジャージの襟、折れてます。後ろ」
「!」

私が指摘すると、日吉くんは慌てて首もとに手をやる…のですが、ラケットケースが邪魔で届いてません。
駆け足で近寄り、襟を直そうと首もとに手を伸ばします。
すると日吉くんの手が重なりました。

「ッ」
「あ、すみません」

一瞬驚いて日吉くんの手は宙を舞いました。手があたったくらいでそんな大袈裟な。
いや、確かに私の手があたったのなら当然の反応ですよね。

「はい、できました」
「……悪い。ありがとう」
「いえ」

そしてまた最初と同じ歩幅で歩きだしました。
…今日の晩御飯どうしようかな。




伊武って…彼氏なのか?

すごく親しげだったんだが。
しかもなんか、名前で呼んでたし。
…まぁ、佐鳥の外見じゃいないほうが可笑しいよな。

…待て待て待て待て。何を考えてるんだ俺。佐鳥が付き合おうが何だろうが俺には関係ないだろアホか俺は。手があたったくらいで何動揺してるんだ。

ああくそ、調子狂う。

考えてみれば、席が隣になってからこんなに話したりしたの初めてだ。
気づかれないように、そうっと後ろを歩く佐鳥を盗み見した。目があったような気がして、髪をいじくって誤魔化した。

…なんでこんなに疲れてるんだろ、俺。


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