21

俺が駐車場に戻ってくると、加藤先輩はすでに来ていて、忍足先輩と佐鳥が一緒に乗ることになっていた。
納得いかないとか別に思ってはいないが、忍足先輩は確実に下心がある。なんて白々しい。今度から下心先輩と呼ぼう。
で、俺は何故か向日先輩と乗ることになった。

俺が外側、先輩が内側。
俺は頬杖をついて、外の景色を眺めている。丁度高速に乗った所だ。

「…なぁ、日吉」
「はい?」
「ちょっと、聞いてくんね?」
「…?何ですか。突然」

いたって普通の声音。でも、なんだかいつもみたいな活気がない。
向日先輩はグミを食べながら前を向いて、俺には見向きもしない。何だ一体。

「実はさー、今日、理沙と一緒に学校来てたんだよ」
「…はぁ」
「ほら、俺ってよく理沙に付きまとってただろ?まぁ、好きだから、っていうことなんだけどよ」

まぁ、見ててもそれはわかります。

「でも、気づいたんだよなぁ。あいつも悪口言うって」
「…は?」

何だ?何て言った?悪口…?

「理沙はさ、顔もタイプだし気軽に接してくれるから好感は持ってたんだよ。でも、今日。あいつ、俺に佐鳥の悪口言ってきたんだよ」
「!」

なぁ、とやっとこっちを向いた。
肩は落胆している。目も活気がない。

「どう思う?」
「どう思う…って…」
「いやまぁそりゃあさ!?誰だって悪口くらい言うだろうよ。でもさ……でも、佐鳥ってどう見ても悪い奴には見えないんだよ」
「どんな悪口言ったんですか?」

先輩は躊躇い、深いため息した。
そして後ろに座っている忍足先輩と佐鳥を気にしながら、罰の悪そうな顔をした。

「…あ、アバズレ…とか、色目使って皆を騙してる……とか、そりゃまぁいろいろ…?……なんかショックだよなぁ、好きな女から悪口聞くなんて」

初めて見たかもしれない。こんな落ち込む先輩。

「……別に、人間は一人や二人の悪口くらい言いますよ」
「!」
「要はそんな人を好きな自分はそれでいいのかってことでしょう。だから、その事で向日先輩が加藤先輩を嫌いになったなら、向日先輩は加藤先輩をそれほど好きじゃなかった、それだけじゃないですか」
「……」
「それに、そんなことでいちいち悩んでてもしょうがないですよ。女って大体そんなモンでしょ」
「…俺は理沙の言うことなら信じてやりてぇけど……。こればっかはな…」

ふぅ、とため息をついてグミを口に含んだ。
加藤先輩はそろそろ本性を出す。
向日先輩に悪口を言った時点で、佐鳥を自分の敵に回すつもりでいる。
自分のものだと言い張る俺たちテニス部に佐鳥が入ってきたことによって自分の立ち位置が危ないと思っているらしい。
監督の言葉を思い出した。
今回、あの人絡みで不祥事が起きたら、あの人をマネージャーから外す。
何かが起こりそうな気がしてならない。大事にならなきゃいいけど。

「…よし、決めた!」
「何をです」
「俺が直々に、理沙が嘘つきか調べる。ってことで、まずは佐鳥と仲良くなる」
「え」

そう言って先輩は後ろに向き返り、後ろに座っている忍足先輩と佐鳥にグミを差し出した。

……いや、どうしてそうなった。
渡し終えて一言。

「佐鳥って間近で見ると結構可愛いんだな」

…あーもう、勝手にしろよ。


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