20「……」
「…?どうかしたの?」
「あー、うん」
海常へと向かうバスの中、幹也は不安そうに携帯を見つめていた。
隣に座っているリコはそんな幹也に問いかける。
「いやぁね、みきなに応援メールでもと思って」
「キモッ!」
「ひどっ!リコひどいっ!兄心だって!」
「だからアンタみきなちゃんに嫌われてんのよ。ったく、じゃあ私が代わりに送ってあげる!」
そう言ってリコは幹也の携帯を奪った。
それなりに騒がしいバスの中でもポケットにいれておいた携帯のメロディは聞こえました。
多分メールですね。
その音楽に気づいたのか、忍足先輩は読んでいた本から顔をあげました。酔わないんでしょうか。
「すみません、私です」
「あ、そか。佐鳥さん携帯持ってたんや」
「ないと不便ですからね」
と言ってオレンジ色の携帯を開きメールを確認します。
っていうか私に携帯って必要なんですかね。宝の持ち腐れのような気がします。
受信ボックスを開くと、-佐鳥幹也-とありました。珍しい。何かあったのでしょうか。
from:佐鳥幹也
sub:(^▽^)/
ヤッホー
こっちは今神奈川に向かってる最中だよ!!(≧▽≦)
試合楽しみだなぁ〜 絶対勝つ(笑)!!
何かあったらすぐ連絡してね!!
そっちも頑張って!(。ゝ∀・)ゞ
バイバイ(⌒0⌒)/~~☆
「ウザッ」
「!?」
思わず口に出てしまいました。え、何ですか。幹也ウザッ。しかも所々女口調なんですがどういうことですか。
「え、何?何かあったん?」
「あ、いえすみません。失言でしたね、お構い無く」
忍足先輩が若干焦っています。そうでした、忍足先輩がいたんだった。ああ、危ない。
いやでもこれは…。実兄からこんなメールきたら誰だって…。
するとまたピロリロリン、と携帯が鳴りました。また幹也からです。
from:佐鳥幹也
sub:違うから!!
さっきのメール俺が打ったやつじゃないから!!
リコが打ったやつだから!!
だからウザイとか言うな!!
「…ああ、成る程…」
リコさんか。リコさんなら、つじつまが合う。ああよかった。さっきのメールが幹也じゃなくて。本気で拒絶しそうになる所でした。
えーと…なんと返信しましょうか。
リコさん、ご心配して下さりありがとうございます。
今のところ、まだ平和です。こちらもバスで移動中です。
練習試合、頑張ってください。
幹也をよろしくお願いします。幹也も他の皆さんに迷惑かけないように。
うん、まぁこれでいいでしょう。送信ボタンを押して携帯を閉じました。
相変わらず、幹也とリコさんはうまくやってるようです。
ふと視線を感じ横を見ると、忍足先輩がこちらを見ていました。
「……どうかされましたか?」
「あ、スマン。何や新鮮やと思うてな」
「そうですか?」
「おん。…誰とメールしとったん?」
「兄とその彼女さんです」
「へぇ、佐鳥さんお兄さんおるんや」
「ええ。忍足先輩は兄弟いるんですか?」
「姉がおるで。性別ちゃうせいかあんま似てない言われるけどな」
苦笑いする忍足先輩。
お姉さんかぁ。いいですよね。幹也が女だったらよかったのに。いやでも女だったらもっとめんどくさいですね。
でも将来的にはリコさんが(多分)姉的立場になるので、それまで辛抱ですね。
「じゃあ佐鳥さん長女なんや。しっかりしとるな」
「普通は兄がしっかりすべきなんですが、どうにもこうにも…。大変ですよ」
頼れる兄ではあるんですけどね。
そんな話をしていると、前の座席から向日先輩が顔を出しました。
「二人共グミ食う?」
腕が伸びてきました。手にはコンビニで見かける市販のグミが。忍足先輩は本を閉じ、手を差し出しました。
「じゃあ貰うわ」
「佐鳥はグミ食える?ソーダ味なんだけどよ」
「あ、はい」
「じゃ、これラスト2個だから。侑士、ゴミ処理よろしく!」
「って俺かいな」
「あ、私ゴミ袋ありますよ」
「あ、すまんな佐鳥さん。おおきに」
「あ、あとあられがあるんだけど食う?」
「どんだけ持ってきとんねん」
忍足先輩が呆れながら言いました。
まだまだ、道のりは長そうです。
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