19-2

「佐鳥には兄がいるだろ」

駐車場に向かう途中、跡部さんが唐突に話し出した。

「その兄は、監督の教え子だ」
「…それと何の関係が?」
「…頭脳明晰、氷帝創立以来の天才なんて謳(うた)われてた。そんな奴に、教師はよってたかって期待していた」
「……」

そんな話初耳だ。
佐鳥からは足が速い以外何の取り柄もないとか言われていた、佐鳥の兄貴。そんなにすごい人だったのか?

「佐鳥の家は両親も天才だなんて言われている。その両親の血を色濃く受け継いだ奴なりに、大きなプレッシャーがあったんだよ」
「!…」
「一時期、本当に大変だったらしい。プレッシャーに耐えきれなくなり、情緒不安定になったとかなんとか。その佐鳥の兄の担任が、監督だ」
「…重なって見える、っていうのは…その事なんですか」
「多分な。今はその才能が、佐鳥本人には開花してねぇ。監督はそれからが心配なんだろ」
「…あの、俺からも一ついいですか」
「あ?」

立ち止まった。
俺の数歩前を歩いていた跡部さんは、振り返り俺を見た。

「…アンタ、加藤先輩がマネージャー辞めるのについて反対はしないんですか?」
「…」
「っていうか、佐鳥がマネージャーするのに反対しないんですか?あんなに理沙理沙言っといて、随分アッサリしてますね」
「…お前、そういえば最初っから加藤のこと嫌ってたな」
「当たり前でしょう」
「野暮ったいのは嫌いだ。結論からすりゃ、はっきり言ってどうでもいい。あいつがマネージャーを続けようが辞めようが、佐鳥がマネージャーをしようが。マネージャーのことなんかでいちいち目くじらたててるほど暇じゃねぇ。…あと少しで、俺様は部長の座を降板しなきゃならねぇ」
「…」
「テニスに専念したい、とでも言っておく」

ニヤリと笑った。いつもの、あの人に戻った。

「…気づくの、遅すぎですよ」
「アァン?あんなの単なる遊戯だろ」
「よく言いますよ」

ほんと、よく言うよ。



「へぇー、佐鳥さん、ほんとに合宿来るんだぁ」

人を小馬鹿にしたように言いました。行きますよ。行きたくないですけど。
そんな加藤先輩の声を聞いて、私の隣にいる忍足さんが一歩前に踏み出しました。
でも私の視線を感じたのか、それから先は何もしません。

「何だかんだで部活にも一回も顔出してなかったし。てっきり合宿にはこないかと思ってた」
「すみません。出たほうがよろしかったですか?」
「え?全然!だってわからないまま部活に来られても迷惑だもん!」
「ですよね。行かなくて正解です」

私がそう言うと先輩はイラッとしたのか、私に背を向け鳳くんと宍戸先輩のもとへ行きました。

なんだか子供っぽい人ですね。

「…佐鳥さん、もしかして口喧嘩とか強い?」
「いえ、喧嘩自体あまりしませんのでよくわかりません」
「そか。何や手慣れとるなぁ思うてな」
「そうでしょうか」
「バス隣に座ってもええ?」
「話とびましたね。まぁいいですけど」

よろしゅう、おおきに、と忍足先輩が言いました。
そういえば、出発時間は何時でしょうか。


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