19-1

「!…跡部さん」

見ないと思ったら跡部さんは監督といた。優雅に紅茶なんか飲んでいて少しムカついた。

「ああ日吉。跡部とは合宿の練習内容の話をしていた所だ」
「はぁ…」
「お前には全く違う用件なんだが…佐鳥のことだ」
「佐鳥…ですか?」

跡部さんも紅茶を飲む手を止めた。
かくゆう俺も佐鳥の話だとは思わなかったので少し驚いた。監督は淡々と話し出す。

「どうやら体が弱いらしくてな。貧血持ちでもあるらしく、倒れてしまうこともあるようだ。日吉は佐鳥と仲がいいと聞いた。合宿中、具合が悪そうだと思ったら私に話してくれ。跡部も頼む」
「…あの、まずその前に、俺と佐鳥が仲がいいって誰から聞いたんですか?」
「ああ、暁くんだ」

あの野郎監督に話してやがったな…。

「何だ日吉。お前、佐鳥に気があるのか?」
「違いますよ」

ククっと笑った跡部さん。あんたは加藤先輩とイチャついてろ。

「…あと、ここから大事な話だ」
「!」

顔つきが変わった。
跡部さんも監督の目を見た。

「…今回の合宿で加藤が問題…どんなささいなことでも、加藤が原因でいざこざが起こったら、あいつを辞めさせるつもりだ」
「マネージャーから、ということですか監督」
「ああ。…まぁ、起こらないことを祈るがな。…そして、今回の合宿で佐鳥の業績がよければ、彼女をマネージャーにしたいと考えている」
「!」
「佐鳥を?」
「勿論、本人がよければの話だ」

そして監督はカップを手に取った。

「…随分佐鳥を気に入ってますね」

跡部さんが言った。
それは俺も思ったことだ。監督がこんなにも一人の人間を推薦することはない。
そんなにお気に入りなのか?

「…重なって見えるから、とでも言っておこう」
「…?」
「…」

何にだ?と思ったら、跡部さんが成る程な、と小さく呟いた。
何に成る程なのかわからないが、監督にこれ以上聞く勇気はなかった。心配、慈しみといった表情を浮かべる監督。聞く勇気がない、というより、これ以上聞いてはいけない気がした。

「では監督、話は以上で終わりですか?」
「ああ」
「それでは、失礼します。行くぞ日吉」
「…はい」

小さくお辞儀をして部室を出た。
最後に一回振り返ったが、監督は紅茶を飲んでいた。


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